行政・起業家・会計士タッグでベンチャー支援(ひと最前線)
上場への道、オール大阪で

2015/10/29付
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新たな産業の担い手となるベンチャー企業。有望企業が育っているかを示す指標の一つが新規上場企業数だ。かつて大阪府では2桁あったが、2015年1~10月は5社と全国シェアは7%に低迷。こうした中、大阪から新規上場を増やそうと行政マン、起業家、会計士がタッグを組んだ。

「大阪の産業をけん引するベンチャーを育てたい」と意気込む(左から)権、谷井、石木の各氏(大阪市北区)

「大阪の産業をけん引するベンチャーを育てたい」と意気込む(左から)権、谷井、石木の各氏(大阪市北区)

「違いを出さないと上場は難しいですよ」。10月19日、大阪・梅田の会議室でジェイコムホールディングス社長の岡本泰彦(54)が語った相手は、突っ張り棒メーカー、平安伸銅工業(大阪市)社長の竹内香予子(33)。大阪府が10月始めたベンチャー企業成長プロジェクト「Booming(ブーミング)!」に選ばれた若手起業家の一人だ。

株式上場の経験者が若手を個別指導する「メンタリング」は1時間強に及んだ。ホームページの体裁から成長戦略、資金調達方法なども話し合った。岡本は「上場は成長の手段であって目的ではない」と強調。竹内は「上場のメリットが聞けて、具体的なイメージが湧いた」と満足げだ。

ブーミング!の旗振り役は大阪府中小企業支援室長の石木慎一(52)。「10~20年先に、大阪の産業をけん引するベンチャーを育てたい」と意気込む。

石木はかつて府でベンチャー支援に携わった。当時はファンドを通じた資金供給や専門家支援が中心だった。07年までに事業はいったん終了し、府は各地のベンチャー支援環境を視察し、新たな構想を練った。「大阪に足りないのは先輩が後輩を育てるエコシステム」――。ちょうど安倍政権が「地方創生」を掲げ、自治体に交付金を出した。内容を大幅に刷新し10年ぶりに府のベンチャー支援事業を復活させた。

事業を担うのはシナジーマーケティング社長の谷井等(43)が率いる起業家団体、EO大阪だ。谷井は約5年前、EOジャパン(現・EO東京)から独立し、EO大阪を立ち上げた。年商1億円以上の関西の起業家が30人超集まり、経験やノウハウを共有する。

谷井は1997年に起業、07年に株式の上場を果たした。だが関西で後に続く起業家が少なかった。理由は「起業家自身にある」と谷井は考える。「トマトは肥料や水を潤沢に与えるより、乾いた土壌の方が甘く育つ」。知識や経験だけでなく、「人間的な成長を促すため起業家自身に考えさせることも大切だ」。

谷井の動きに触発されたのは公認会計士の権基哲(30)だ。権は監査法人トーマツの子会社トーマツベンチャーサポート(東京・千代田)で関西ベンチャーの支援を担当する。東京と大阪を往復する中で、「大阪は成功した起業家とベンチャーの距離が遠い」と感じていた。「オール大阪で一緒にやりませんか」と谷井に協業を持ち掛けた。

90社から選ばれたのは21社。この21社をプロ野球チームのごとく1軍と2軍に分けた。1軍は谷井ら上場経験者が、2軍はトーマツがメンター役になる。「露骨過ぎるのでは……」と府から慎重な意見も出たが、谷井が押し切った。「競争意識をあおる」のが狙いだ。

21人は仲間でありライバル。10月9日、大阪市内で開かれた説明会では一人ひとりが自己紹介し、「1番先に上場したい」と宣言する者も。権も「1軍に負けない支援をしたい」と反骨精神をあらわにした。

谷井はブーミング!で育てた起業家を海外進出させる構想も温める。10月初旬、世界の起業家約400人を集めたイベントを大阪で開いた。「EOのネットワークを活用して世界で活躍してほしい」と話す。

目標は「今後3年間で60社を支援し、このうち10社以上を上場させる」(石木)こと。行政マン、起業家、会計士それぞれが持ち味を生かした連携プレーに期待したい。

=敬称略

(大阪経済部 鈴木健二朗)

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