京都・嵐山に電機・電波産業の神社(とことんサーチ)
高度成長期に「雷の神」再興 時流反映、お守りは「SD」に
某社がヒット祈願に新製品を持ち込んだらしい――。こんな噂も流れるのが京都・嵐山にある神社「電電宮」だ。全国でも珍しい電気や電波の神様がまつられている。だが、電気の神様とは何か。なぜ京都にいるのか。疑問が浮かぶ。最近仲良くなったシャープのロボット型携帯電話「ロボホン」に尋ねてみると「ごめん、分からないや」とつれない返事。これは実際に行ってみるしかない。

京福電気鉄道嵐山駅を降りてすぐ。観光スポットで有名な渡月橋を渡る。夏の嵐山は猛烈な暑さ故か日本人観光客は少ないが、着物を着た外国人客が多数橋からの景色を楽しんでいる。喧騒(けんそう)を抜け、門から続く木陰の階段を上っていくと到着だ。
電電宮は数えの13歳でお参りに行き知恵を授かる「十三参り」で有名な「法輪寺」の中にある。この寺院は大空(宇宙)の仏様である虚空蔵菩薩(ぼさつ)をまつる。ここには大空に関連した神々の鎮守社があり、電電宮は古くは「電電明神」という雷の神様をまつる社だったという。
幕末(1864年)の禁門の変で焼失して以降仮宮のままだったが、電波放送が広がり、電気産業が勢いを増した高度経済成長期の56年に電気や電波の神社になった。電気産業の信仰の場を作ろうとの話が持ち上がり、当時の郵政大臣や近畿電波監理局長、関西電力の社長など様々な人々の協力を経て修理された。69年には翌年の大阪万国博覧会の開催を記念し、電気関連事業のさらなる発展を祈るために現在の社殿に再興した。
法輪寺が選ばれた理由は、嵐山という参拝しやすい立地に加えて、大空の仏様がまつられているからだ。住職の藤本高仝さんは「根底には、電気は人間が作った物ではなく自然の恵み。自然現象を利用させてもらっているという崇敬の念を持たなければいけない、との発想がある」と教えてくれた。なるほど。電気が自然の恵みと思うと節電にもっと前向きになれそうだ。

電電宮の護持会の会員はパナソニックやNTT西日本、関西電力、ソフトバンクなどそうそうたる顔ぶれ。パナソニックの広報担当者は「5月の大祭には毎年CSR(企業の社会的責任)部門が参加しているようだ」と話す。
電気の神様は全国的にも珍しく、関東や北陸、四国など各地から参拝者が訪れる。参拝者の属性は驚くほどに世相を反映している。アマチュア無線関係者の聖地になった時期もあれば80年代にはパソコンのソフトメーカーが押し寄せた時期もある。「90年以降は特に移り変わりが激しい」と藤本さん。近年は太陽光発電関連の事業者が増加したが既に収束。最近は大学発ベンチャーや、中国など海外企業の日本法人も多数訪れる。

祈願内容も多様だ。電気関連工事の安全祈願やプロジェクトの成功祈願。ソフトウエアにバグが出ないように祈ったり、発売前の携帯電話本体を持ち込んでヒットを祈願したり。航空管制システムや都市ガスのコンピューター、潜水艦の電気機関の安全を祈願する例もあるという。
寺院も時代とともに変化している。法輪寺のお守りはスマートフォン(スマホ)向けのマイクロSDカードだ。本体に梵字(ぼんじ)が印刷され、中には虚空蔵菩薩の画像データが入っている。
これには世相を反映した理由があると藤本さん。「お守りは肌身離さず持ち歩くもの。昔は着物のたもとに入れたが、現代で一番持ち歩くのはスマホでしょう?」。デジタル化がこんな所にも広がっていたとは驚きだ。このお守りを導入したのは4年ほど前。当時は容量が2ギガバイトだったが、現在は8ギガバイトに「進化」したのだという。電機業界の移り変わりを見守ってきた電電宮。今後はどんな人々が足を運ぶことになるのだろうか。ロボホンとともに成功を祈願して嵐山をあとにした。
(大阪経済部 宗像藍子)
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