究極の味、46人がつなぐ 象印炊飯ジャーの組み立て(ここに技あり)
大阪府東大阪市
2月8日の中国の春節(旧正月)前後には、多くの中国人旅行客が日本を訪れそうだ。訪日客の「爆買い」の代表的な商品が炊飯ジャー。特に象印マホービンの商品は日本トップシェアの評判で人気を集める。

ほとんど手作業
爆買いに備え、従業員が一心に組み立て作業に取り組む。象印の国内唯一の炊飯ジャーの組み立て工場である大阪工場(大阪府大東市)。ここでは130種類の炊飯ジャーを作り分けている。柔軟に対応するため、ほとんどの工程が手作業だ。最高級の「南部鉄器 極め羽釜」は大阪工場で扱う製品では最多となる46人の手を経て完成する。
「究極のおいしいごはんを作りたい」という執念で実現したのが、業界で初めてという100%純粋な鉄製の内釜。内釜は岩手県にある南部鉄器の工房で製造する。職人技で仕上げる内釜はわずかなばらつきも許されない。約20キログラムの鉄を使って鋳造し、最終的には1.8キログラムほどの完成品の釜を削り出す。内釜が欠けないように膜を張るホーロー加工も独自技術だ。
工場では「ビス締めなどは単純に見えるが、一気に正確に仕上げるのは難しい」と第一事業部サブマネージャーの野間雄太さん(38)は語る。手際よくこなす従業員を認定する「マイスター制度」があり、認定した従業員から他の従業員への技能伝承を進める。
指紋や傷逃さず
製品の重量が増す製造工程後半の作業台を見ると、工程ごとにだんだんと台が低くなる。極め羽釜の完成品の重量は8.5キログラムにもなるため、次の工程に速やかに送れるようにしている。製品の外部を組み立てた後、最後に鉄製の内釜を入れる。内釜は鉄器工房での製造後、協力工場など5カ所で加工し、大阪工場に納入する。途中でさびないように内釜は1つずつ防錆紙で密封して慎重に運ぶ。
最終の外観検査では黒い覆いと発光ダイオード(LED)照明10個を設置した空間で、指紋や傷の有無を調べる。「10万円以上する高級ジャーは消費者の要求水準が高い」(野間さん)ため、蛍光灯では見逃してしまう小さな指紋や傷も探す。技術開発だけではなく製造現場でも工夫を重ねる。
文 大阪経済部 宗像藍子
写真 三村幸作
南部鉄器の内釜を手でそっとはめ込んでいく。その所作の正確さに目を見張った。何度繰り返しても、両手のひじの角度や動作のスピード、人差し指の伸ばし具合まで寸分の狂いも生じない。インバウンド市場の主役を生み出している、という自負を感じた。
関連企業・業界