工程貫く 信念の糸 テニス ナイロン製ガット(ここに技あり)
兵庫県加東市

2016/3/29 6:00
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ラインぎりぎりに決まるショット、正確無比のボレー。テニス選手の技を陰で支えるのが、ラケットの縦横に張り巡らされたガット(ストリング)だ。大阪の老舗メーカー「ゴーセン」はナイロン製の人工ガットを国内で初めて開発したパイオニアとして知られる。

高速で回転しながら、多数の細い糸を束ねて1本にする

高速で回転しながら、多数の細い糸を束ねて1本にする

■紡糸から開発

同社の天神工場(兵庫県加東市)では、特注した円盤形のマシンがせわしなく回転している。中央部を通っていく1本の芯糸に、横から一定の角度で異なる素材の細い糸が十数本も巻き付けられる。断面の直径約1.3ミリのガットを多層構造にしていく工程だ。

樹脂を熱で溶かして原糸を作る紡糸に始まり、製造の全工程を手掛ける同社の強みは開発力だ。選手の特性に応じ、商品は約30種に及ぶ。なかには打球に強烈なスピンがかかる品もある。糸の断面を楕円形にして球との接触面積を増やし、さらに糸の表面に凹凸を施した必勝アイテムだ。

1951年に釣り糸の生産から始めた同社がナイロン製ガットを開発したのは54年。それまで国内では羊の腸(ガット)で作られた輸入品しか手に入らなかった。天然ガットは値が張るうえに雨にぬれるとダメになる。「テニスを誰にでも手が届くスポーツに」(大橋一宏・天神工場長)と参入を決めると、安価で柔らかい打球感が評判に。

■シェア一時85%

当時のトップ選手だったジミー・コナーズやクリス・エバートと使用契約を結んだことも追い風となり、80年代半ばには約85%の世界シェアを誇った。だが2000年代に入ると、耐久性があり、張った直後はナイロン以上の反発力があるポリエステル製が台頭。錦織圭選手ら人気プロも使って注目が集まった。これに押されて同社のシェアは30%ほどに落ち込んでいる。

振動の吸収性に優れ、肘への負担が少ないナイロン製品を追求してきたが、今夏にプロ仕様のポリエステル製品の発売を予定する。「肘にやさしいナイロン製を多くの中高生に広めるためにも、まずブランド価値を高めたい」と大橋工場長は語る。プロ向けの新製品を一般向けのナイロン復権のための呼び水に。本流はあくまでナイロンなのだ。

文 大阪・運動担当 常広文太

写真 三村幸作

〈カメラマンひとこと〉
 製造工程は自動化が進むが仕上げに欠かせないのは人の感覚だ。工員がマシンのすぐそばに立ち、ざらつきなどがないか目を光らせる。指を差し出したかと思うと猛スピードで動く糸に素手で触れ、触感でも確かめていた。精度追求への執念を見た気がした。
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