2019年3月19日(火)

風神再来 すごみ鮮明 便利堂のコロタイプ印刷(ここに技あり)
京都市

2015/10/20付
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幅1.2メートルのローラーがぐるりと回ると、迫力満点の風神が現れた。尾形光琳が18世紀に描いた「風神雷神図屏風」の原寸大複製だ。美術印刷の便利堂(京都市中京区)が「コロタイプ印刷」という技術を駆使し微妙な階調まで再現する。

回転する印刷機のローラーに浮かび上がった風神雷神図

回転する印刷機のローラーに浮かび上がった風神雷神図

約150年前にフランスで生まれたコロタイプ印刷はもともと単色刷りだったが、便利堂が戦後間もない頃、独自に多色刷りを開発した。木版画に似た技術だが、木版が凸版なのに対し、コロタイプは凹版。

印刷物と同サイズのネガを作り、ゼラチンを使った版に感光させると、色が付く部分だけ固まる。固まらない部分に水分を含ませると微妙に隆起して凸型になり、「髪の毛一本以下の凹凸ができる」とオペレーターの尾崎正樹氏。インクが版の凹型に入り込み、紙に刷ると色が付く。

今回の複製に当たっては緑、茶など8枚の版を用意した。職人は微妙な色合いに目を凝らし、何度も試し刷りする。下地に黒や茶を使うことで風神の深みのある緑の肌が現出。尾崎氏は「どの色をどう重ねれば本物に近づくかは感覚がものを言う」と明かす。

コロタイプ印刷は明治期に日本に伝わり、急速に広まった。しかし1980年代初め、版と紙が直接触れないオフセット印刷が普及すると需要は減少。国内では現在、便利堂を含め2社しか残っていないという。

風神雷神図の複製には約5カ月もかけた。手間も時間もかかるが、表現力や保存性は抜群だ。戦前の34年に法隆寺の金堂壁画を複製した際に作ったガラス製の版は今年3月、国の重要文化財に指定された。

風神雷神図は江戸初期に京都で発祥した美術の流派「琳派」を象徴する。俵屋宗達が描いた風神雷神を約100年後に光琳が模写。さらに19世紀になって絵師の酒井抱一が風神雷神の裏に風になびく秋草を題材にした「夏秋草図」を描き表裏一体の屏風にした。ところが74年、所蔵する東京国立博物館が保存上の理由から両図を切り離し、別々の屏風になっていた。

今回の複製はかつての表裏一体を再現する狙い。11月3日~12月6日、京都文化博物館(同)で公開する。琳派の美意識と、それを正確に再現する印刷。古都に脈々と流れる感性と技が一つの屏風に結実する。

文 大阪・文化担当 安芸悟

写真 浦田晃之介

<カメラマンひとこと> 刷り上がる臨場感を表現しようとスローシャッターに設定。ただ、この日に刷るのは数枚のみでやり直しが利かない。緊張しつつ構えると、回るローラーの下から現れた風神がぎょろりとにらんだ。慌ててシャッターを切った一枚は、図らずも良いタイミングだった。

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