伝統の技に革新の足音 オーダーメードの八幡靴(未来への百景)
滋賀県近江八幡市

2014/11/18 6:30
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 滋賀県近江八幡市にはかつて、数百件の製靴業者があったという。天然の皮革を使い職人が1足ずつ手縫いで仕上げる八幡靴は、高級靴として知られた。近江八幡に住んだ米国出身の建築家、ヴォーリズも八幡靴を愛用した一人。「世界一の逸品」と絶賛し、米国帰国後にシカゴの靴屋に修理を頼んだら「こんな素晴らしい靴は見たことがない」と驚かれた逸話が伝わる。

年季の入った道具がならぶなか、ポリゴンのような樹脂製足型が異彩を放つ

 そんな八幡靴も安い輸入品の増加と職人の高齢化で存続の瀬戸際にある。もはや「コトワ靴製作所」1社が残るのみだ。代表の川原勲さんはオーダーメードの靴を手ごろな価格で提供することで生き残りを図る。イージーオーダーなら3万円台から作れる。

 イージーオーダーといっても「トリシャム」というスポンジ素材の計測器で足の長さや幅をしっかり測る。工房に備える16種類の靴型と照らし合わせ、最も近いものをベースに仕上げていくから「95%の人はこれで合う」(川原さん)。定番で22種類のデザイン、5種類の革、最大10色からオリジナルの靴を作ってもらえる。色の違う革を組み合わせることもできる。

 甲革と靴底を直接縫い合わせるマッケイ製法を採用し、軽く靴が90度以上曲がるしなやかさが特長だ。「100メートルダッシュができ(量産品を)大阪府警にも納めてきた」(川原さん)

 靴の販売は川原さんが代表取締役を務めるリバーフィールドが担う。近江八幡駅前に店を出し、インターネット通販やデパートの催事でジワリと存在感を高めている。今年10月には足型を3次元で計測するフットスキャナーを導入した。樹脂でリアルな足型を再現し「よそなら10万円以上する」(川原さん)というフルオーダーが6万円台で実現した。来年には3Dプリンターで足型を作製し、さらなるコストダウンを目指す。

 11月上旬、同社の工房では所狭しと置かれた靴型や何十種類もの道具を駆使し、2人の職人が黙々と「底付け」と呼ばれる作業をしていた。その一人、藤田秀一さんは「つり込みという位置決めが難しい」と話した。

 川原さんは若手職人の育成にも取り組んでいる。「一人前になるには3~5年かかる」(川原さん)世界で、後継者を育てられるかどうかが八幡靴存続のカギを握る。

文 編集委員 磯道真

写真 三村幸作

<取材手帳から> 靴にする革は牛のほか仔(こ)牛、カンガルー、イノシシ、子ヤギから選べる。原材料の価格は最近の円安で高騰している。川原さんは食用牛として知名度の高い近江牛を使った八幡靴の開発を計画している。既に滋賀県から助成金を受けることも決まった。
 オーダーメードだからといって、近江八幡まで出向く必要はない。イージーオーダーならネットで注文可能。リバーフィールドから送られた「トリシャム」で足型を測定して送り返すと、2週間ほどで仮縫いされた靴が届く。試し履きして修正箇所などを指示すると、10日後には完成品が届く仕組みだ。

<カメラマン余話> 企業の記者会見から突発的な事件事故まで取材分野は多岐にわたり、時には長時間歩き続けることもあるため、激しい動きができる靴を好む傾向にある。革靴とは普段、縁遠い。今回、職人たちの丹念な仕事を見て、たまには足元を見直してもよいかと思った。

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