「爆買い」呼ぶ小林製薬商品 海越え偶然「コラボ」(ひと最前線)

2016/6/16 6:00
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関西では昨年約790万人と過去最高だった訪日外国人観光客。中国人を筆頭に「爆買い」という言葉がすっかり定着したが、なかでも中華圏からの訪日客が買うべき医薬品とされる「神薬」が注目を集める。SNS(交流サイト)などで広まったとされ、現在は12ある神薬のうち5つが小林製薬の商品だ。ヒット商品を生み出した社員たちと、「爆買い」の仕掛け人に迫った。

「これまで10年以上人気がなかったのに」。小林製薬で液体ばんそうこう「サカムケア」を担当するブランドマネージャー、池本晃一(30)は振り返る。速乾性の接着剤のような液体で傷口を覆う商品で、2001年に誕生した。

「皿洗いなど水仕事が多い40代女性をメーンターゲットに、塗りやすいようハケを付けて売り出した」という自信作だったが、「食器洗い機などが普及し、さかむけで悩む人は減った」という時代背景もあり、販売は低迷していた。それが文字通り「爆発的」に売れ始めたのが14年ごろ。15年には購入者の7割が外国人となった。

「なぜだ?」。池本が心斎橋筋商店街(大阪市)にあるドラッグストアからの販売データに目を見張ったのが13年末のこと。サカムケアが飛ぶように売れていたのだ。

漢字で「液体絆創膏(ばんそうこう)」と記載したのが中国人にも理解され、皿洗いで指先がさかむけたイラストをパッケージに採用したことが奏功したようだった。中国では上水道の水質が良くない中、家庭での水仕事が多いという事情があった。だが最大の理由はSNSなどで「神薬」のひとつに挙げられていたためだった。長年、新商品がなかった品目だが開発費が付き、今年4月には靴擦れ予防用を発売した。

狙うは二匹目のドジョウ。中国人好みのパッケージに切り替えることで「爆買い」対象に昇格した神薬もある。

藤江昌広(37)は冷却シート「熱さまシート」を担当するブランドマネージャー。冷却効果が8時間続くのが特徴だ。池本と同じく13年末ごろ、心斎橋エリアの複数の店で調査すると「パッケージが金色の歯磨き粉の販売が伸びていることが分かった」。そこで社内で会議を開き、中国人好みの金色版投入の検討に入った。

15年9月に金色パッケージの約10万個を心斎橋エリアで試験発売したところ、狙い通りほぼ完売。16年1月に全国の約500店舗での販売に踏み切った。今年も訪日客が増える夏季に向けてキャンペーンを「もう一度仕掛ける」と鼻息は荒い。

だが「神薬」というリストは誰が作ったのだろうか。現時点では「神のみぞ知る」状態で分からないが、その土台を作った一人と目されるのが、日本薬粧研究家の鄭世彬(36)だ。

台湾南部の台南市出身。00年に初来日し、ドラッグストアを巡った際に「日本の医薬品はパッケージのデザインが分かりやすく明るい色を使っている」と驚いた。

漢方薬の伝統のためか、中国や台湾の医薬品は白や黒など地味な色が多いだけに、深く印象に残ったという。以来、中国語で日本の医薬品などを紹介する本を執筆している。

「神薬」が騒がれ始める前に鄭が12年に出版した本では、訪日前に友人に購入を必ず頼まれる医薬品を10品目取り上げている。「この形式が、現在の12の神薬のフォーマットになった可能性がある」。市場調査などを手掛けるツインプラネット(東京・渋谷)の取締役、芦沢岳人(36)は指摘する。

小林製薬の池本と藤江は「鄭氏のことは噂でしか知らない」という。だが商品の開発者とその伝道師が思わぬ形でコラボし、海を越えるヒット商品に育った。=敬称略

(大阪経済部 加藤彰介)

▼神薬 久光製薬の貼り薬「サロンパス」やエスエス製薬の「イブクイック頭痛薬」など12品目が選ばれている。小林製薬の製品は「サカムケア」、「熱さまシート」のほか消炎鎮痛剤「アンメルツヨコヨコ」、角質軟化剤「ニノキュア」と女性保健薬「命の母A」の5つを占め最も多い。
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