県の顔として外国人に魅力発信（次代の創造手）

「自然の多さや歴史の深さといった奈良の魅力を多くの外国人に伝えたい」。そんな思いで大和路を駆け回る米国人男性がいる。今年7月、初の「奈良県観光PRアンバサダー」に就いたブライアン・バイアーだ。6年前の来日以来、日本の観光地を数多く巡り、海外からの観光客への情報や案内が十分でないと実感。県の観光振興の「顔」として情報発信に奔走する。

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「そうめんをすくって、キャッチ」。今月4日、県の観光情報発信施設「猿沢イン」（奈良市）で、流しそうめんを囲んで外国人観光客と英語で話し込むバイアーの姿があった。米国から妻と訪れた男性（65）は「初めての体験で面白かった」。大台ケ原など奈良の景勝地や郷土料理店の情報を聞き、満足そうだった。

厳寒の冬や大自然で知られるコロラド州から訪れたのは2009年春。8歳のころ、アニメ映画のビデオで初めて日本に触れ、「自然豊かな暖かな島国」と思った。ところが、長野冬季五輪（1998年）をテレビで見て雪も降る国だと驚く。「奥深い日本の四季を感じたい」と海を渡った。

季節ごとに彩りを変える山や海、寺社の趣、伝統文化……。浜松市、新潟市と、外国語指導助手（ALT）として小中学校で英語を教える傍ら、週末などを使って38都府県を回った。

その中で強く感じたのが外国人観光客への情報や案内の足りなさだ。「観光地にはその場所や建物を細かく伝える外国語の説明が少ない」。史跡などでも詳しく紹介する英語の説明がないケースが目立ったという。交通機関でも外国語の案内の少なさに不便を感じる観光客の姿を目にした。

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「外国人が思い浮かべるのは東京、新幹線、すし、京都」。日本の魅力が伝わり切れていない現状をもどかしく思い、大学で学んだ映像制作の技術を使って動画サイト「ユーチューブ」に訪ねた観光地に関する情報を英語で発信。外国人向けの旅行情報を扱う会社運営のホームページでライターとしても活動した。さらに一歩踏み出したのがアンバサダーの役割だ。

県内の観光地を訪れても宿泊は京都か大阪でという人が多いと言われる奈良。県にとっては外国人の誘客は課題で、アンバサダーを担える外国人を探していたところ、情報発信で実績を持つバイアーの存在を知った。バイアーも外国人にとっての奈良の情報の薄さを感じており、観光振興の柱となることに進み出た。

奈良市内に住み、県内の景勝地や寺社などを頻繁に巡る。自分が納得するまで見、分かるまで聞き、魅力を自らの皮膚感覚で外国人観光客にインターネットで伝える。自治体による観光振興で、バイアーのように、地元に移り住んでPRに特化する外国人は珍しい。

時には、観光地の関係者に本音でぶつかることも。外国人観光客が少ないと、ある寺の関係者が相談に訪れた際のバイアーの言葉はこうだった。「英語など外国語の詳しい説明なしでは国宝の仏像もすべて同じに見え、印象に残らない」。外国人目線で意見を注ぐ。

県内在住の外国人や観光関連の団体とも連携し、新たな一手を探りたいというバイアー。まなざしは奈良を、そして関西の魅力を海外へ伝えようという熱意に満ちている。=敬称略

（大阪社会部　岡田江美）