2019年8月25日(日)

ムスリムに食の安心届ける 食肉検査キットを開発(ひと最前線)

2016/9/8 6:00
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日本で働くアジア出身者の増加に伴い、関西でも増えているイスラム教徒(ムスリム)。豚肉やアルコールなど戒律で飲食を禁じられているものがあるが、日本では食品の具材や調味料などに含まれ識別しにくいものも多く、悩みの種だった。そんな彼らの一助となる食肉の識別検査キットを開発したのがクラボウと東洋製缶グループホールディングスだ。当初からムスリム向けと意図していたのではなく、ひょんなことから技術を転用できたのだという。

「ムスリムの国内在留人口は推定で15万人程度とみられ、近年ではインドネシアやマレーシアから留学生や労働者が増えている」。大阪市に本拠を置く日本ハラール協会理事長のレモン史視(38)はこう話す。同協会はイスラム教徒が口にできる食材などの「ハラル認証」をする機関で、企業などから依頼を受けて味噌やしょうゆ、化粧品などの成分を分析している。

ムスリムというと中東に多いという印象を受けるかもしれないが、実はムスリム人口が世界最大なのはインドネシア。日本企業の東南アジアなどへの進出に伴い、技術研修などで国内の事業所で働くムスリムたちも徐々に増えている。

一方で「外食ができる場所が少なく困っている」と同協会理事のレモン柾(33)は話す。一般的なレストランでは食材に含まれる成分がよく分からないためだ。仕方なく自炊用に、ムスリムでも安心できる専用の食材を置いている業務用スーパーを探して食材を確保しているという。

そんな彼らの力強い味方となりそうなのが、クラボウと東洋製缶GHDが開発した食肉検査キットだ。

「当初、実はムスリム向けの製品開発ではなかった」と、クラボウのバイオメディカル部副部長の小郷和彦(58)は話す。開発に乗り出した2013年に、両社が着目したのは食肉偽装問題だった。欧州や中東で人気の高い牛肉や羊、ウサギなどの食肉は比較的高価なため、馬、鶏、ヤギなどの代替肉で偽装されていることがあるという。

そこで食肉の種類を判別するキットを開発の途中段階ながら14年秋に都内での製品展示会に出展したところ、「ハラル対応に関する引き合いが非常に多くて驚いた」(小郷)。

手応えを感じた両社は正式に遺伝子検出キットの共同開発を始めた。東洋製缶GHDで開発を担うことになったのがライフサイエンス事業推進室マネージャーの国正英彦(52)だ。国正は「食の安全意識が国内外で高まっていた。食の安心作りがビジネスにならないか考えた」と振り返る。

だが道のりは平たんではなかった。検査キットは各種の肉が持つ特定の遺伝子配列を見つけることで判定する。しかし食肉は生、加熱後、冷凍の状態それぞれで配列が変化してしまうため、高い精度で検出するには高いハードルがあった。

試行錯誤の末、食肉の状態にかかわらず変わらない遺伝子配列の部分を見つけて検出できるようにし、15年11月に食肉の種類を従来の6分の1の費用で調べられる検査キットの発売にこぎ着けた。

現在は食肉を扱う原材料メーカーや食肉加工をする食品メーカーなどに、48サンプル用を7万2千円で販売している。レモン史視は「製品の品質を科学的に証明するのに不可欠。例えば食品輸出を考える企業などにとって、強力な味方になる」と話す。

両社はさらなる展開を見据える。キットだけだと汎用の遺伝子増幅装置で調べる必要があり、顧客は同装置を保有する食品メーカーや大手の外食産業などに限られる。今後は比較的小規模な飲食店でも手軽に検査ができるよう、小郷は「装置の小型化にも乗り出し、持ち運べるようにしたい」と打ち明ける。

人口減や高齢化が進む国内では海外人材の活用が進むと見込まれるうえ、20年には東京五輪も開催される。日本を訪れる外国人の「困りごと」をなるべく多く解決し、彼らも暮らしやすい社会にできるか。食肉検査キットの開発は、そのためのヒントと言えるのかもしれない。

=敬称略

(大阪経済部 千葉大史)

▼ハラル アラビア語で「許されるもの」という意味。ムスリムは食生活に関しては、豚肉や豚由来の成分、アルコールの摂取はできない。また牛や鶏など豚以外の食肉についても、ハラルの規定に即した手法で解体したものしか食べられない。このため、ムスリムは豚由来の成分やアルコール類が入った加工食品、調味料の摂取や、豚由来のコラーゲンなどが含まれる基礎化粧品などの使用を避けている。

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