織田勢も畏れた?極彩色 西明寺の本堂・三重塔(時の回廊)
滋賀県甲良町

2014/11/7 6:30
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 琵琶湖の東に「湖東三山」と呼ばれる天台宗の3つの寺院がある。その最北に位置するのが西明寺(さいみょうじ、滋賀県甲良町)だ。鎌倉時代に建てられた本堂と三重塔は国宝に指定され、中世天台建築の宝庫といわれる滋賀県の代表格に挙げられる。三重塔は極彩色に彩られた初層内部を持つ。

極楽世界を表現したという西明寺三重塔の初層内部(滋賀県甲良町)=西明寺提供
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極楽世界を表現したという西明寺三重塔の初層内部(滋賀県甲良町)=西明寺提供

■700年以上前から

 これが700年以上も残る色彩だろうか。優美さを感じさせる三重塔の扉を開けると、薄暗い照明の中にきらびやかな色の世界があった。閉じられた空間は写真で見るよりも狭く、目が慣れるにつれて極彩色が息苦しいほどに迫ってくる。

 初層内部は須弥壇と床を除いて、壁と天井の全面が彩色されている。中央の須弥壇に大日如来像。周囲に立つ四天柱には32の菩薩像が描かれ、曼荼羅(まんだら)を構成する。4面の壁にある8枚の絵は天台宗の重要な経典である法華経28品(ほん)を表現する。龍や極楽鳥が飛び交い、牡丹や菊、空想の花である宝相華(ほうそうげ)が埋め尽くす。絵の具がはがれた部分も多いが、残っている色は鮮やかだ。

国宝に指定されている三重塔(右)と本堂
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国宝に指定されている三重塔(右)と本堂

 使われている岩絵の具は乾燥すると剥落しやすい。「これだけ鮮やかな色彩が残っているのは奇跡」と滋賀県文化財保護課の古川史隆主査は話す。四天柱と8枚の壁画は、建物とは別に国重要文化財に指定されている。塔初層の内部は8日から30日まで特別公開される(荒天時は中止)。

 本堂は正面と側面にそれぞれ8本の柱が並ぶ七間堂だ。鎌倉前期に五間堂として建てられ、室町時代に拡張された。同課の池野保参事はその手法に注目する。「五間堂の外側に新たな柱を追加すると、屋根に傾斜があるため、軒が低くなりすぎる。外柱を1間外にずらし、元の位置に高い柱を追加して建物を広げ、軒の高さを保った」

 西明寺は834年に仁明天皇の勅願で開かれたと伝わる。祈願・修行の道場として栄え、山内には17の諸堂と300の僧坊があった。織田信長の焼き打ちで一時衰えたが、江戸時代に復興された。

■焼き打ち免れる

 1571年9月、比叡山延暦寺を焼き打ちした信長は同じ天台寺院の西明寺にも丹羽長秀らが率いる軍勢を差し向けた。僧と農民が協力して坊舎を燃やし、全山が炎上したかのように見せかけて、本堂や三重塔、二天門(室町時代、国重要文化財)を守ったとの伝承がある。だが中野英勝住職は「織田勢が見誤ったとは考えにくい。神仏に対する畏怖があり、内心ほっとしてだまされたふりをしたのではないか」とみる。

 当時の西明寺は広い寺域に土塁や堀切を持ち、僧侶だけでなく職人や商人が集住する宗教都市だった。「寺は宗教的権威でもあり、国人領主のように人々を支配する世俗的権威でもあった。焼き打ちには、敵対勢力の拠点を破壊するという狙いがあった」と滋賀県立大学の中井均教授(日本城郭史)は指摘する。

 見落としたのか、あえて見逃したのか。400年余り前の一夜のドラマが中世美術・建築の至宝を今に残した。境内はまもなく全山が赤く染まる紅葉のシーズンを迎える。

文 編集委員 木下修臣

写真 大岡敦

〈より道〉 干支の守り神 十二神将像

 西明寺の本堂内陣に居並ぶ十二神将像は鎌倉時代の木像だ。「動きが大きい十二神将は仏像の中でも制作が難しいが、西明寺の像はバランスがいい」(滋賀県文化財保護課)という。

頭上に十二支の動物を載せている十二神将像
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頭上に十二支の動物を載せている十二神将像

 本来は本尊の薬師如来を守る神将だが、12という数字から十二支(干支=えと)と結びついた。安底羅(あんちら)大将が卯(う)、魔虎羅(まこら)大将が申(さる)と、それぞれ頭に十二支の動物を載せている。人々は自分の生まれ年の神将を健康の守り本尊として拝み、西明寺は「えと寺」とも呼ばれる。

 本堂後陣に安置されている諸仏は織田勢の焼き打ちの際、数多くの坊舎から運び込まれ難を逃れた。

 JR河瀬駅から予約制乗合タクシー(近江タクシー(電)0749・22・0106)で約15分。22~30日はJR彦根駅、多賀町役場と湖東三山を結ぶシャトルバスが運行。
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 JR河瀬駅から予約制乗合タクシー(近江タクシー(電)0749・22・0106)で約15分。22~30日はJR彦根駅、多賀町役場と湖東三山を結ぶシャトルバスが運行。

 その1つ、釈迦如来像(鎌倉時代)は京都・嵯峨にある清涼寺の像(国宝)の模刻。インド様式の同心円状の衣文、縄目状のらほつが特徴で、国重要文化財となっている。

 西明寺の総門から入ってすぐ、東西に延びる参道の下を掘り抜いて、巨大な溝のような名神高速が南北に走っている。高速建設に際し、同寺参道の左右には石垣が築かれた。「名神高速をまたぐ橋の中で、コストが最も高くついた」ともいわれる。

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