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神に納める句 先人と競う 杭全神社の連歌所(時の回廊)

大阪市

五七五の句に七七の句を付け、それを受けて次の五七五を考える連歌。集った人々が感性を競い、思考を巡らし、歌を作り上げていく。大阪市平野区の杭全(くまた)神社には江戸時代中期の宝永5年(1708年)に再建された連歌会専用の建物、連歌所が残る。

唯一の現存建物

部屋の上部には三十六歌仙の画が掲げられている(大阪市平野区)

12畳の主室と4畳の控えの間で構成。大坂冬の陣で壊された後に再建されたといい、唯一の現存例とされる。主室の壁には三十六歌仙の画が掲げられている。「連歌が盛んだった昔は各地の神社に併設されていたと思うが、明治以降、連歌が廃れるとともになくなっていったのでは」。藤江正謹(まさのり)宮司は推測する。

各地では社務所用に解体移築されたり、取り壊されて跡地が駐車場や結婚式場になったりしたらしい。

杭全神社の連歌所もかつては物置のようになっていた。貴重な建物と分かり、1987年5月に連歌会を復活させた。連歌奉納を神事としてきた福岡県行橋市の須佐神社の元宮司や、国語学者の浜千代清・京都女子大教授らが力を貸したという。以来月1回の月次(つきなみ)連歌会が続いてきた。

5月27日の連歌会に出向いた。午後5時すぎ、主室正面の床の間に神社祭神である牛頭(ごず)天王(てんのう)と熊野権現の軸が掛けられた。藤江宮司の導きで参加者(連衆〈れんじゅう〉)一同がまず拝礼をする。この日、指導役の宗匠を務めたのは鶴崎裕雄・帝塚山学院大名誉教授。補佐役の執筆(しゅひつ)が発句(最初の五七五)を読み上げる。「虹立つは 男神女神の 恵みかな」。そこに句が付けられていく。

知恵集め作品に

皆がひとわたり詠んだ後は「出勝ち」と呼ばれる出来栄え競争になる。連衆の句から宗匠が1句選び、執筆が謡うように詠み上げ、作者の名を告げると、皆が句の賦(記録帳)に書き取る。机の上には辞書、句をしたためる短冊、ノート、筆記具などが並ぶ。電子辞書を活用する人もいる。書いた文字を消したり、字数を指折り数えたり……。静かな熱気が座敷にこもる。

連歌所は江戸時代に中期に建てられた

比較的自由に歌を詠み継いでいく連句と違い、連歌には細かな決まりがある。神を喜ばせる作品であることから生じる制約だ。創造性を重んじながら奉納にふさわしくない言葉を排し、全体を一作品にするための規則と言おうか。

詠むジャンルは、花鳥風月などの自然や暮らし、人の気持ち、恋など様々。「寒空に 百夜を通ふ わがさだめ」「真白き雪は 止むこともなし」。冬の句が詠まれると冬の句を続けるとか、逆に同じ趣が続かぬよう句の間を空けるなどのルールがある。

浜千代教授の教え子の山村規子さんと、7年ほど前から参加する末吉洋子さんは今、鶴崎教授とともに、江戸初期から中期に奉納された連歌の解読をしている。末吉さんは中世から近世にかけて栄えた有力者、七名家(しちみょうけ)の筆頭、末吉家の末裔(まつえい)だ。「10代ほど前の先祖の句を解読していると、自然は変わらないと感じたり、語彙が豊富と思ったり。不思議な気持ちになる」

44句を詠み終わり連歌会が終わったのは午後9時すぎ。風流で上品な4時間だった。

文 編集委員 堀田昇吾

写真 伊藤航

〈より道〉 平野郷の民力映す含翠堂

国道25号に面して含翠堂跡の石碑が建てられている

平野は大阪と奈良を結ぶ交通の要衝として長く栄えた。平安時代に征夷大将軍、坂上田村麻呂の次男、広野麿の支配地になり、杭全神社は広野麿の子が創建したとされる。経済力を背景に堺と並んで自治意識が強く、戦国時代には侵攻から町を守る環濠(かんごう)が設けられ、平野郷と呼ばれた。神社の東に環濠の跡がある。

この地の政治経済、文化を主導したのが広野麿の流れをくむ七名家。京都や堺との交流から能楽や茶の湯といった文化が伝わりやすかったのだろう。七名家を中心に地域の人々はそれらの文化に親しんだとみられ、藤江正謹宮司は「連歌所は当時の経済人、文化人のサロンのような役割を果たしたのでは」と語る。

杭全神社へはJR大和路線平野駅から徒歩5分。含翠堂跡へは同12分。

江戸時代も平野は河内木綿の集積加工の中心地として繁栄し、七名家の土橋友直らが享保2年(1717年)に私塾を神社の近くに開き、後年、含翠(がんすい)堂と呼ばれるようになった。ここは著名な民間学問所、懐徳堂のモデルになった。

寄付金やその運用で運営されたといい、当時の地域の文化学術レベルの高さをうかがわせる。含翠堂は明治の学制発布まで続き、国道25号に面して含翠堂跡の碑が建つ。

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