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もっと関西 受難の至宝 目覚め待つ 法隆寺金堂壁画(時の回廊)

奈良県斑鳩町

仏教美術の世界的名作、奈良県斑鳩町の法隆寺金堂壁画(重要文化財、7世紀末~8世紀初め)は数奇な運命をたどってきた。1949年、鮮やかな色彩は火災で失われた。金堂には模写が掲げられ、焼損した実物は収蔵庫で長い眠りについた。そして今、公開に向けて4月以降、本格調査が始まろうとしている。

火炎で色彩失う

焼損した壁画の前で開かれた法要(1月)

今年1月26日、世界最古の木造建築とされる同寺金堂に読経が響いた。消防など関係者約50人が集まり、合掌する姿もあった。

68年前のこの日、解体修理中の金堂から火の手が上がった。炎は堂内をなめ、壁に描かれた「山中羅漢図」18面が焼けて砕け、釈迦(しゃか)や菩薩(ぼさつ)などを描いた大小12面の壁画は彩りを失った。「飛天図」20面は取り外されていて難を逃れた。

火災は当時の社会に衝撃を与え、50年の文化財保護法施行につながった。毎年1月26日は文化財防火デーに定められ、同寺でも法要と防火訓練が行われる。

今では、金堂を訪れた参拝者はまず基壇正面に座す釈迦三尊像などの国宝と対面する。その陰に隠れて見過ごされがちだが、内陣に入ると色鮮やかな壁画が眼前に迫ってくる。ただし、これは焼損前の姿を模写したレプリカのパネルだ。

焼損した壁画は現在、境内に建てられた収蔵庫で眠っている。庫内には黒く炭化した柱や梁(はり)と共に、熱のため色を失い輪郭が残るだけの壁画などでかつての堂内が再構築され、今なお焦げた匂いが漂う。

衝撃的なのは「阿弥陀浄土図」が描かれた第6号壁(高さ313センチ、幅267センチ)。インド・アジャンタ石窟壁画の「蓮華(れんげ)手菩薩像」と並び称された名作だったが、運が悪いことに消火作業の際に穴があけられ、阿弥陀如来像や切手のデザインにもなった観音菩薩像が大きく損なわれた。

保存へ本格調査

焼損前の壁画は鮮やかな色彩をとどめていた(再現複写)

法隆寺解体修理を詳細に記録した「国宝法隆寺金堂修理工事報告」に掲載された写真を見ると、被災直後の壁画は亀裂や剥離が甚だしかった。表面を合成樹脂で固め、裏面を金属板やボルトで補強するなどの保存処置が施されたが、保存上の悪影響を避けるため現在に至るまでごく限定的な公開にとどまっている。

将来への動きが始まったのは一昨年。収蔵庫が築後60年が過ぎて雨漏りなど老朽化が深刻になってきたことから、専門家による保存活用委員会が組織された。

今月の第3回会合で、庫内の温湿度が安定しているとの調査結果が示された。分析機材を搬入しても大丈夫と判断され、4月以降、画像撮影や3次元計測など壁画の構造や顔料成分の究明が本格化する。「高松塚・キトラ両古墳壁画(明日香村)で用いた手法も使って具体的な保存策を探りたい」と委員長の有賀祥隆・東京芸術大客員教授は話す。

「焼損壁画は2千年後も残す必要がある」と古谷正覚執事長。大きな損失を教訓として伝えることも使命という。2019年に中間報告をまとめる方針だ。

文 大阪地方部 清水英徳

写真 大岡敦

 《交通・ガイド》 JR法隆寺駅や近鉄橿原線の筒井駅などからバス。
 法隆寺境内は、金堂などがある西院伽藍(がらん)、玉虫厨子(ずし)などが納められた大宝蔵院、夢殿がある東院伽藍と見どころが多い。通常非公開の国宝・伝法堂、重要文化財・上御堂といった建造物、夢殿の救世観音など秘仏も公開日が設けられている。

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