「梅田迷宮」にアンモナイト !?(とことんサーチ)
地下街に化石 バブルの遺産 大理石で豪華さ演出
複雑に入り組む大阪・梅田の地下街。ネット上では、ゲームで迷宮や地下ろうを意味する「ダンジョン」の異名もついた。頭上の案内板をにらみつつ目的地を目指す人でごった返すが、実は目線を下げると、本物の化石が見つかるらしい。梅田ダンジョンにとじ込められているのは現代人だけではないのか。

2月下旬の平日昼すぎ。梅田の地下街で記者は迷子になりかけた。大きなスーツケースを抱えた外国人観光客らと同様、辺りをキョロキョロ。通路が放射状に広がる場所もあり、どこへ進めばいいか分かりづらい。なんとか待ち合わせ場所の西梅田の地下通路、ガーデンアベニューにたどり着き、地質や化石の専門家で大阪市立自然史博物館の学芸課長、川端清司さん(56)と落ち合った。
「そこにジュラ紀から白亜紀、約2億~6600万年前の本物の化石がたくさんあります」。川端さんが指さしたのは、梅田ダイビル近くの大理石の壁面。半信半疑で目をこらすと、化石の知識が皆無の記者でも一目でアンモナイトと分かる、渦巻き模様があちこちに浮かび上がった。
事情を知らないとデザインとでも思って見過ごしてしまうかもしれない。だが直径2~3センチから10センチを超えるものまで、よく見るとそれぞれに個性があり、「ここだけで100個以上あると思う」(川端さん)。アンモナイトのほかに、イカの仲間で矢の先端のような形をした「ベレムナイト」や、海に暮らす有孔虫の一種「ヌンムリテス(貨幣石)」も見つかった。
JR大阪駅南側のディアモール大阪に移動した。壁にはドイツ・バイエルン地方のゾルンホーフェンから出た大理石が使われているという。同じ石切り場から鳥の祖先「始祖鳥」の化石が発掘されたと聞いて、がぜん必死に壁を見つめる。残念ながら「世紀の大発見」にはならかったが、断面ではなく立体のアンモナイトの化石のほか、ヒトデなどと同じ棘皮(きょくひ)動物のウミユリやサンゴの化石も見つかった。
川端さんによると、化石探しのポイントは「石材」と「色」。化石が見つかるのは大理石のみで、色は大きく分けて、白、赤、ベージュ系統の3種類がある。白い大理石は地中深くの高温下で生成されるため、生き物の痕跡が残っていない。化石があるのは赤かベージュだ。
それにしても梅田の地下街には大理石がふんだんに使われている。なぜか。大阪府立大の橋爪紳也教授(56)が「梅田の地下空間は特殊なんです」と教えてくれた。
地下鉄の駅だけでも3つあり、梅田は地下がメインの歩行者空間だ。さらに複数の事業者によって開発が進められ、橋爪教授は「地下だと感じさせないよう、各事業者が競うように『質の高い空間』を形成した」と推測する。ホワイティうめだの「泉の広場」の天井には「空」が描かれ、阪急三番街には「川」が流れる。百貨店などの内装にも用いられる大理石は豪華なイメージの演出にうってつけだ。
ただ、気前よく大理石を使い空間演出に凝ったのは、資金に余裕があった頃のこと。ディアモールは1970年代から構想が練り始められ、90年に着工した。ガーデンアベニューの着工もほぼ同時期。ぜいたくな意匠は高度経済成長期やバブル時代の「遺産」といえるのかもしれない。
地下で化石探しに没頭している間、地上は「春の嵐」が吹き荒れていたようだ。地下街での化石探しは、天気やお金を気にせず子供でも楽しめる手軽さがある。ダンジョンを冒険気分でさまよい歩くのも悪くない。ディアモールを運営する大阪ダイヤモンド地下街の担当者も「公共の通路なので周囲に迷惑がかからないようお楽しみください」と話してくれた。春休みに試してみてはどうだろう。
(大阪社会部 川崎航)