2018年4月25日(水)

高野山に「企業墓」ずらり(とことんサーチ)
パナソニック・UCC・ヤクルト… 現代の侍、社員ねぎらう

2016/7/16 6:00
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 お盆休みを1カ月後に控え、「お墓参りに行かなくては」と考えていた時、知人が「高野山には変わったお墓がある」と話しかけてきた。企業の墓、だという。これまで企業を取材してきたが、聞いたことがない。謎の「企業墓」を探るべく、現地に赴いた。

 近年は「パワースポット」としても人気がある高野山。奥之院(おくのいん)の参道は老杉がそびえ立ち、「明智光秀」など古めかしい武将の墓が並ぶ。脇道に進み一見普通の墓地にたどり着くと、コーヒーカップ形の「墓石」が目に入った。

 土台には「UCC上島珈琲株式会社」の文字。これが企業墓か。ヤクルト、福助、ロケット。約200メートルの石畳の道の両脇に、見覚えのある企業の商品やロゴを模した「墓石」が次々と見つかった。

 ほかの参拝客も驚いているようだ。約30年ぶりに来たという大阪市港区の自営業、結城勝志さん(47)は「こんな墓石、見た覚えがない。でもそれぞれがデザインされていてこだわりを感じる」。大阪府枚方市の理学療法士、北川拳士さん(22)は「観光ガイドには載っていなかった。何のためにあるのだろうか」と首をかしげる。

 奥之院の墓地を管理する高野山金剛峯寺の吉川東吾さん(57)が「企業墓と言う人もいるが、これらは企業が建てた慰霊碑」と教えてくれた。亡くなった従業員などを供養しているらしい。業界団体が建てたものもあり、古くは江戸時代、旅籠や商店が石碑を建てていたという。

 「記録上、株式会社としては1938年の松下電器産業(当時)が最古」と吉川さん。探してみると、メーンの参道沿いにこけむした石碑「松下電器墓所」があった。

 すぐ隣には「パナソニック墓所」と記された新しい石も。「2008年の社名変更を節目に、参詣客や企業関係者に目印になるようなデザインにした」(パナソニック広報部)といい、毎年9月、80人前後が集まり慰霊の法要を開いているという。

 国立民族学博物館名誉教授で吹田市立博物館の中牧弘允館長(宗教人類学)は「企業墓を持つことはステータス。目立つ石は宣伝にもなる」と指摘する。中牧館長によると、企業墓と呼べるものは比叡山延暦寺や、東京・上野、不忍池の弁天堂など関西以外にもある。企業が自社の敷地内に建てる例も。ただ、これほどの規模は高野山だけで、その数は約100社。「有名な『聖地』だからこそ」で、終身雇用制度や「企業戦士」が深く関わってきた。建立は高度成長期からバブル崩壊前にかけてがピークという。

 ここで1つ疑問が。倒産したりM&A(合併・買収)があったりした場合は? 金剛峯寺の吉川さんの話では、引き払うか維持するかで、いわゆる「無縁墓」はない。敷地はすでにいっぱいだが、現在でも企業から「建てたい」と問い合わせがあり、まれにだが「入れ替え」もある。

 道中で偶然、面白い人に出会った。米シカゴから来たリディア・スミスさん(22)。世界中の墓石を比較研究しているという。「こんなに変わった形の墓石が集まる場所は初めて。1つの企業に勤め続ける人が多い日本独特の文化では」とやや興奮気味。そういえば中牧館長もこう言っていた。「主人のために奉公する武士を弔う文化は、現代企業にも息づいている」

 むかし侍、いま会社員――。戦国時代と現代が交錯する歴史のロマンに胸を熱くし、企業墓の「名刺入れ」に名刺を1枚供えて高野山をあとにした。

(大阪社会部 野岡香里那)

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