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豪華な面々 建武に彩り 東寺・五重塔見守る行道面(時の回廊)

京都市

「40年も遅れての落慶法要とは」「なぜ今ごろ」「それにしてもこの行列の晴れがましさよ」「あの輿(こし)に従う十二天のおのおのが付けている仮面ときたら」

参観の人々が口々にため息を漏らしたに違いない。

1334年、東寺(京都市南区)で五重塔の完成を祝う塔供養(落慶法要)が開かれた。警護の者、僧侶の一行、青侍ら、楽人たち、法螺(ほら)を吹く者、僧侶、また僧侶、幡(ばん)を掲げる者――。幾重にも列を成した隊列に先導され、この日の主役である高僧の阿闍梨(あじゃり)が輿に担がれていく。その左右を6人ずつかしずくように随行するのが、仏教の守護神である十二天に見立てた仮面の人々だ。輿を担ぐのはこちらも阿修羅など八部衆(仏法を守護する8つの神)に仮装した人々。

41年後の完成祝い

落雷の標的になりやすい高層建築。その例に漏れず、東寺の五重塔もこれまで4度焼失した。現在の姿は5代目。1334年の塔供養は平安時代に続く2回目の再建を受けてのものだった。塔は1270年に焼けたものの、1293年に完成していた。ただ、それを祝う法要は41年間、営まれずじまいだった。

行道面を展示中の京都国立博物館の平成知新館(京都市東山区)

「十二天は真言密教の儀式に欠かせない顔ぶれです」と解説するのは東寺宝物館の新見康子・文化財保護課長。「潅頂会(かんじょうえ)という儀式があります。修行僧が戒律や資格を受け継いだことを認証するもので、この儀式でも十二天の絵を一つ一つ式場に巡らせます」

十二天の行道(ぎょうどう)面は自在天、帝釈天、火(か)天、日(にっ)天、梵(ぼん)天、風天、多聞天など。表情も一様でなくおっとりした慈悲の相、憤り怒る忿怒(ふんぬ)の相、どこかペーソスあふれる老相と3パターンあり、変化に富む。もともと10世紀の作と考えられ、1086年と1334年の供養のときに修理した、との銘が裏書きされている。

「十二天の面々は祭礼に箔を付けたに違いありません」とみるのは浅見龍介京都国立博物館企画室長。

世変わりは再び

1334年の塔供養を指図したのは後醍醐天皇。配流先の隠岐島から京都に帰還し、得意の絶頂にあった。足利尊氏、新田義貞ら反鎌倉幕府勢力を取り込み、宿願の倒幕を実現。勢いに乗って公家社会、いや天皇中心の政治復権を目指す、いわゆる建武の新政に臨んでいた。

相次ぎ繰り出す施策に混じって、たまたま石清水八幡宮の祝事と重なったこともあり、東寺五重塔も併せて41年放置されていた落慶法要を営むよう指示した。絢爛(けんらん)豪華な式典は、世の中が変わったことを印象付ける格好の演出になるに違いない。

あいにく、建武の新政は続かず、相次ぐ武将らの離反で権力基盤は揺らぎ、浮上したかに見えた復古政権は南北朝分裂へと向かう。

東寺に伝えられた十二天の行道面は、現在7点を京都国立博物館(京都市)が所蔵する。20日まで同博物館で開催している特集陳列「日本の仮面 人と神仏、鬼の多彩な表情」で見ることができる。残りは散逸して米国ハワイほかに所蔵されているという。

文 編集委員 岡松卓也

写真 浦田晃之介

<より道> 京の大寺院に武将の痕跡

東寺の五重塔(京都市南区)

十二天の仮面を所蔵していた東寺は、弘法大師こと空海ゆかりの寺だ。教王護国寺ともいい、平安京を鎮護する寺院としてスタート。現在でこそさまざまな宗派の本山寺院が点在する京都だが、平安京遷都時は桓武天皇が仏教勢力からの政治干渉を警戒。平安京内での寺院建立をみだりに認めなかった。かろうじて許されたのが、東寺と、これと対を成す西寺(すでに廃寺)だった。

嵯峨天皇の時代に空海に託されると、後に高野山金剛峯寺を開く空海は東寺を真言密教の根本道場として整備する。

足利尊氏が陣を敷いたり、織田信長が初上洛(じょうらく)したときの拠点にするなど、武将らが京都で運を開く端緒を飾った寺としても知られる。

 京都国立博物館へは京阪線七条駅から徒歩7分。東寺へは近鉄京都線東寺駅から同10分。

伽藍(がらん)配置がおおむね南に面してできている。玄関に当たる南大門から北に向かうにつれ金堂、講堂、食堂といった堂宇が一直線に並ぶ。京都よりむしろ奈良の大寺院に構えが似ている。

新幹線からも見える国宝・五重塔は高さ54.8メートル、木造塔としては日本最大。現在は5代目で、1644年に徳川家光により再建された。

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