米ヤフー、終わらぬ過大評価と衰退の連鎖

2017/6/15 5:50
保存
共有
印刷
その他

ネット企業の草分け、米ヤフーが米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズに買収され表舞台から消えた。ヤフーはデジタルメディア企業と広告テクノロジー企業の二つの顔がある。広告テクノロジー企業として過大評価され、米グーグルに無謀な戦いを挑んだのが復活を阻んだ最大の原因だった。ベライゾン傘下ではネット広告事業のけん引役として期待される。過大評価と衰退の負の連鎖はまだ終わっていない。

■変わる通信・ネットの競争環境

4月、米トランプ大統領はオバマ前政権が昨秋導入を決めていた通信企業へのプライバシー規制の撤廃に署名した。撤廃されたのは、居場所、サービス利用履歴など個人情報の活用に関する規制。ネット接続会社(ISP)が個人情報を使う場合の消費者への説明義務の厳格化がなくなった。

プライバシー保護にとっては大きな後退だが、位置情報や端末別の利用状況、データの流れまで把握できる通信会社にとっては、データ生かした広告の収益化を本格的に進める上で大きな追い風になる。

電話の伝統を引きずる通信企業には、ネット企業に比べ相対的に厳しい規制が課されてきた。1971年に米連邦通信委員会(FCC)が巨大な独占企業だった電話大手AT&Tに対し、データ処理やネット事業への直接参入を禁じた名残だ。トランプ政権はこの競争条件をそろえようとしている。こうした環境の下でベライゾンはヤフーの買収を終えた。

ヤフーは弱ったとはいえ、ベライゾンと合わせればネット広告のシェアはグーグル、フェイスブックに次ぐ3位だ。両社で技術とデータを持ち寄り、傘下のAOLが持つハフポストなど豊富なデジタルコンテンツが生み出すデータや顧客網と組み合わせればより精緻な分析が可能になる。効果的な広告配信につながる可能性がある。

ネット企業、コンテンツ企業と一体化した巨大な通信大手がシリコンバレーに挑み、ネット広告産業の構造に変化をもたらす。ベライゾンとヤフーの未来は明るいように見える。だが、そこにはヤフーの過大評価という繰り返されてきたワナが潜んでいる。

スペインの広告ソフト会社マーフィールのシャビ・ブーマラ最高経営責任者(CEO)は「グーグルなどのネット大手は暗号化を強化したブラウザなどで通信会社がデータを統制できる領域を狭めにかかっている」と指摘する。グーグルやフェイスブックは自社で通信やデータのインフラを整備しており、通信会社の回線を経由しないデータは増える一方だ。

ヤフーも一定程度はこうした能力やインフラを持つが、ネット広告の2強に比べるとどうしても見劣りする。

グーグルから来たマリッサ・メイヤー氏のもとでヤフーの経営は迷走した

グーグルから来たマリッサ・メイヤー氏のもとでヤフーの経営は迷走した

■すべてが中途半端に

最盛期のヤフーはパソコン時代のネットへの入り口を独占した。当時はヤフーと提携するだけでその会社の株が急騰する現象が続き、苦労せずにネット広告が集まった。結果、技術革新で後れ、後発のグーグルと圧倒的な技術差がついた。この差は今にいたるまで開く一方だ。

ヤフーはコンテンツが集まるネット版のマスメディアとしてのブランドと強みを持っていた。実際、スポーツや経済ニュースのポータルとして今も固定客が離れていない。動画配信大手ネットフリックスのようなケーブルテレビ契約を置き換え、独自コンテンツまで制作するサービスに進化していく可能性もありえた。

だが、2012年にヤフーが復活への最後の望みを託しスカウトしたのは、デジタルメディア事業を強化していた有力候補のロス・レヴィンゾーン暫定CEOではなく、米グーグル出身のマリッサ・メイヤー氏だった。ヤフーは脚光を浴びるテクノロジー企業としての未来に賭け、そして負けた。

当時も既にグーグルとの技術や営業の力の差を縮めて勢いを取り戻す可能性はゼロに近かった。結果論だが、相対的に競合が弱いデジタルメディア事業の方が復活の可能性はあった。実際、メイヤー氏は任期途中でスポーツのネット配信やネット雑誌などの独自コンテンツの制作などメディア事業にも力を入れるようになっていった。

だが、すべてが中途半端だった。デジタルメディアと広告テクノロジー企業として両方で生き残る道を探ったため、経営資源は分散した。メイヤー氏は自身がCEOに選ばれた理由である広告テクノロジー企業としての可能性を捨てきれなかった。

結局、ヤフーの復活を阻んだのはテクノロジー企業として過大評価だ。ベライゾンはヤフーとAOLの統合新会社の今後についてこうコメントしている。「業界最先端の広告技術を構築していく」。過大評価と衰退の連鎖は続く。

(シリコンバレー=兼松雄一郎)

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]