2019年8月20日(火)

イメルト氏退任、もはや「主流」でない米GEの現実

2017/6/13 11:15
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「ジェフは150%の事を成し遂げたんじゃないかな」――。

12日午前(日本時間同日深夜)、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、最高経営責任者(CEO)を約16年間務めるジェフ・イメルト氏の退任を発表した。記者は、同日正午すぎにイメルト氏の側近として、現在GE副会長を務めるジョン・ライス氏と電話で話す機会があった。

■産業界は評価も、さえない株価

ライス氏が真っ先にイメルト氏の功績にあげたのが、2001年の同時テロと08年の金融危機の克服だった。「冷静に的確に判断する姿は感服するばかりだった」

インダストリアル・インターネットの展示会で講演するジェフ・イメルト氏

インダストリアル・インターネットの展示会で講演するジェフ・イメルト氏

イメルト氏は金融事業の大幅縮小や仏アルストム部門買収などGEのお家芸である「選択と集中」でも手腕を発揮。「産業のデジタル化にも道筋をつけ、GEが進むべき方向性を示せたのではないか」。側近の評価なので多少割り引く必要もあるが、米産業界でのイメルト評は「実力経営者」として定着していたのは事実だ。

しかし、12日の米株式市場はイメルト氏の退任をむしろ好感し、GE株は前週末比3.5%高と急伸した。

「イメルトGEは文字通り株主にとって災難だった」。英バークレイズのアナリスト、スコット・デービス氏は厳しい評価を下す。

市場の評価が厳しいのは株価が上がらないことに尽きる。ダウ工業株30種平均は過去1年間で19%高だが、GE株は約4%安と低迷。会社は株主のものとの考えが米では徹底されており、株価は経営者の評価そのもの。物言う株主(アクティビスト)の標的となり、イメルト氏退任観測が出るのもやむを得なかった。

「GEは何でプラットフォーム(基盤)を握れるのかわかりにくい」。ある投資銀行関係者はかねてGEに対してこんな評価を下していた。直近では高値調整しているが現在、米株式市場での主役はアルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックといった最新のIT(情報技術)を駆使する米西海岸を拠点にする企業だ。

■西海岸企業に比べ出遅れ

イメルト氏がCEOに就任した当初、上場していなかったグーグル(現在は持ち株会社のアルファベットが上場)の時価総額は9日終値で6640億ドル。アマゾンの4676億ドル、フェイスブックの4335億ドルと、それぞれGEの2433億ドルを大きく上回る。

グーグルは検索エンジンや各種基本ソフト(OS)、アマゾンは電子商取引やクラウド、フェイスブックはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)と、それぞれの「基盤」に顧客や利用者を取り込み実質的な業界標準を握る。そうした勝者総取りの高収益ビジネスモデルに市場の評価が集まる。

実際、16年12月期にGEの売上高純利益率は7.1%と製造業としては高い水準だが、アルファベットは21%、フェイスブックは37%と異次元の収益力だ(アマゾンは投資先行のため1.7%)。

イメルト氏もデジタル化の波頭をとらえ、米西海岸に拠点を設け、あらゆるものがインターネットにつながるIoT分野のプラットフォームを握るべくソフトウエア「プリデックス」に注力する体制を構築した。しかし、独シーメンスや日立製作所などが同様の戦略をとるなか、どれだけのシェアを確保できるのか。

事業の選択と集中、グローバル経営、マーケティング、機動的な財務運営……。GEが産業の「主流」だった時代、その卓越した事業オペレーションは常に称賛の的となり、GEはビジネススクールの格好のケーススタディーとなった。

もっとも、世界シェア首位の製品を多く持ち、各業界でGEはリーダー的存在ではある。しかし、業種を超えてデジタル技術が経営革新の中核テーマになる時代、革新の主役の座はグーグルやアマゾンなどに奪われつつある。

イメルト時代の16年間は、米企業の革新の舞台がGEが拠点を構える米東海岸から、西海岸へと急速にシフトした時期でもあった。

■トランプ政権で「非主流」扱いに

産業界だけではない。最近のイメルト氏はGEがもう一つの「主流」でなくなっていることにいら立っていた。

「パリ協定離脱には失望した。産業界は政府を頼ってはならない」

6月1日、イメルト氏はツイッターでトランプ米大統領を批判した。歴代GEのトップがここまで大統領を公に痛烈に批判するのはまれだ。GEはインフラや軍需などの事業規模が大きいだけに国とのつながりも深い。党派問わず時の政権と友好関係を築き、政治との関係でGEは常に産業界で主流的な存在だった。

実際、イメルト氏は熱心な共和党支持者だが、民主党オバマ政権の要請に応じて大統領諮問機関の「雇用・競争力会議」の議長に就任。そのとき、イメルト氏が実現に汗を流したのが、環太平洋経済連携協定(TPP)とパリ協定だった。むろん、グローバル展開や再生可能エネルギーといったGEのビジネスへの貢献も見込んでのことだ。

イメルト氏はトランプ氏にTPPとパリ協定にとどまることを働きかけたが、トランプ氏はあっさり離脱を表明。トランプ政権の政策動向から判断すると産業界の主流は鉄鋼や石炭、化学などで、GEは脇に追いやられてしまっている。

この16年間でGEを取り巻く産業界や政界を巡る環境は変わり、GEはもはや「主流」と言えなくなった。GEは「エクセレントカンパニー」として産業界の主役の座を再びつかむことができるのか。後任のジョン・フラナリー氏にその使命は託された。

(ニューヨーク=稲井創一)

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