タイ上院、軍が実質支配 憲法起草委が最終草案

2016/3/29 23:00
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【バンコク=小谷洋司】タイの憲法起草委員会は29日、軍事政権による上院の実質的な支配を認める新憲法の最終草案を発表した。軍政の意向をくむ上院が民選政府をけん制し、選挙で選ばれた下院議員でなくても首相になれる内容だ。軍の影響力が残る形になり、タクシン元首相を支持する勢力など民主派は8月の国民投票に向けて反発を強めている。

起草委がタイ国会内で最終草案を公表した。「民主主義は単に人びとに権力を与えることではない。何が人々の利益になるかを優先して考えるべきだ」。ミーチャイ委員長の発言には軍人や官僚ら伝統的な支配層に根付くエリート主義的な価値観がにじんだ。

1月末公表の1次草案と決定的に異なるのは憲法を施行してからの5年間を「移行期間」と規定し、多くの非民主的な暫定措置を盛り込んだ点だ。上院を任命制にするのが一例で、現在の軍政が指名する9~12人の「委員会」が250人のうち244人を選ぶ。

残る6議席は国軍最高司令官、陸海空軍の各司令官、防衛次官、警察長官に配分する。通常は選挙で選ばれた政府の統制下で動く治安当局の制服組トップらが議員に名を連ねる異例の体制だ。

草案は上院の役割として内閣による国家改革の実行を「管理・監視する」と新たに規定した。内閣に3カ月ごとに進み具合の報告を求める。

タイの憲政史上もっとも民主的とされる「1997年憲法」が上院全員を公選制としていたのと比べ、憲法を作り替えるごとに上院が権威主義的になっている。上院が一枚岩になると、民選政府が主導する形での憲法改正も難しくなる。

首相の資格については「下院議員でなければならない」としていた従来憲法の規定を削除。選挙を経ない人物の首相就任に道を開いた。タクシン元首相派ら民主派勢力はプラユット暫定首相ら軍政幹部が、新憲法の下で正式な首相に就く可能性を指摘している。

最終草案は少数派の伝統的な支配層の権益を上院に確保するのと引き換えに、民政復帰の道筋を示す形を取った。2017年7月に予定される次期総選挙後に発足する民選政府は、軍政の意向をくむ上院と折り合いを付けながら政策を進めるシステムになる。

01年以降の総選挙で連戦連勝したタクシン元首相派は、草案づくりの段階から「非民主的」と批判してきた。汚職の罪で国外逃亡中のタクシン氏も「現代にこのような憲法が書かれるとは想像できない。まるで18世紀のようだ」などと欧米メディアを通じて軍政批判を強めている。

タイ国内のタクシン派の結束を促す狙いがあるとみられる。ただ、タクシン氏の言動に対しては、普段は軍政の強権姿勢を批判することが多い地元英字紙が「法を守らないタクシン氏に草案を批判する権利はない」と厳しいコラムを掲載するなど冷めた見方もある。

タイ政治に詳しいタマサート大学の外山文子客員研究員は「軍が当面権力を手放すつもりがないことがはっきりした草案だ」と指摘した。

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