2018年9月26日(水)

[FT]トランプ氏、米の中間層裏切る

FT
2017/5/29 6:30
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Financial Times

 トランプ米政権が先週、予算教書を公表したのはトランプ大統領がバチカンに向かっていた時だ。トランプ氏がローマ法王に“懺悔(ざんげ)”するとしたら、まさにふさわしいタイミングだった。

 教書は米国の富裕層へ大型減税をするため、恵まれない人たちから「安心」をはぎ取るものだ。これは耐え難いほどの裏切り行為だ。トランプ氏は中間層を助けると主張して大統領選を戦った。ところが今、同氏はその中間層などへの支援を削ろうとしている。貧困層へのフードスタンプ(食料配給券)の削減に加え、高等教育の財源を全廃する。学生ローンを借りられない人のための補助金は廃止。低賃金労働者に就労継続を促す優遇税制も大幅に見直す。研究、職業訓練、奨学金制度向けの予算も大きく減らす。唯一、積み増すのは国防費で「メキシコ国境の壁」建設費も盛り込んだ。

 予算案の議会通過に向け、トランプ氏が共和党員の支持を取り付けるのは難しいことが救いだ。とはいえ、教書は米国が抱える経済問題を解決するための手段を、連邦政府から奪っている。

 ここで看過できないのは政治が混乱し、政策が前に進まないことだ。メディアはトランプ氏周辺とロシアとの不透明な関係を巡る疑惑に関し、リーク合戦をしている。政権は火消しに追われ、後世、政治の空転と記憶されるだろう。

 そもそも、トランプ氏を大統領選で勝利に導いたのは、中間層のエリートへの不満だった。その中間層に対し、同氏は病気より恐ろしい誤った“治療法”を提供しようとしている。

 その悪影響のひとつは、国民の分断の深刻化だ。トランプ氏の政策課題のうち、議会を通過する可能性が高いのは、減税と医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止だ。前者は社会の勝者をさらに強くし、後者は敗者から最も重要なセーフティーネットを奪う。

 米国では予算のほぼ4分の3が国防と債務の利払い、社会保障や高齢者向け医療保険などの給付に充てられている。この比率はトランプ氏の任期中に8割を超えるはずだ。一方、人的投資、特に技能向上や教育への予算の割合は低下し続けるだろう。米国はすでに昨日のツケを明日の借金で賄っている。同氏は将来世代にさらに大きなツケを回そうとしている。

 2つ目の悪影響は、米国の民主主義に対するものだ。米国の民主主義が旧ソ連の社会主義に打ち勝ったのは、わずか四半世紀前のことだ。この勝利をもたらしたのは中間層への手厚い投資だった。

 教書からはそれがすっかり忘れ去られていることが読み取れる。米国ではこの20年間、格差が拡大し、民主主義の寛容性が消滅の危機にひんしている。トランプ氏は今、その限界を試している。

 もちろん、米国の制度が機能していることは確かだ。トランプ氏の大統領権限に対してはチェック・アンド・バランスが働いている。裁判所はイスラム教徒の入国を制限する大統領令を差し止めた。メディアや市民は同氏の失態を見逃さず、白日の下にさらしている。特別検察官はロシア疑惑を捜査している。これらは元来、そう機能するよう設計されたものだ。

 だが広義でみると、制度は機能不全に陥っている。トランプ氏の大統領就任がその表れだった。同氏の下で、制度の崩壊が一段と進むだろう。

By Edward Luce

(2017年5月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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