サウジ、新皇太子に権力集中 副皇太子から昇格
【テヘラン=岐部秀光】サウジアラビアのサルマン国王(81)は21日、王位継承順位が1位のムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(57)を解任し、自身の子である継承順位2位のムハンマド・ビン・サルマン国防相兼副皇太子(31)を皇太子に昇格させる異例の人事勅令を出した。内外の政策全般を事実上、取り仕切ってきた新皇太子への権力集中が一段と進む。新皇太子のもとでサウジは国内改革を加速する一方、対立するイランに一段と強硬に出る可能性がある。

サウジ国営通信によると、国王や皇太子を選ぶ「忠誠委員会」でメンバー34人中31人がこの人事案に賛成した。新皇太子は副首相を兼務し国防相としての地位も維持する。副首相や内相を兼務していた皇太子は全ての職務を解任された。
世界最大の石油輸出国で、イスラム教スンニ派の盟主でもあるサウジでは、建国の父であるアブドルアジズ初代国王の子供にあたる「第2世代」で男子が順番に王位を継承してきた。
だが、2015年1月にアブドラ国王の死去に伴い就任したサルマン国王は、この暗黙のルールを覆した。同年4月に弟で王位継承者だったムクリン皇太子を解任。初代国王の孫にあたる「第3世代」から皇太子と副皇太子を選んだ。
ムクリン皇太子の解任は、高齢化する王室の若返りという理屈があった。今回は第3世代で有能とされた50代の皇太子解任だけに衝撃は大きい。
年の離れた皇太子と副皇太子には対立説も流れた。サルマン国王はムハンマド新皇太子が次期国王になる道を固め、王室内の権力闘争を防ぐ目的があったとみられる。しかし、権力から遠ざけられた王族たちの不満が強まっている可能性があり、将来の火ダネになりかねない。
新皇太子は外交分野では、16年のイランとの断交や、今年6月の同じアラブの国であるカタールとの断交を主導。5月にも「イスラム世界を支配しようとしている」とイランを異例の激しい口調で批判しており、旗印である対外強硬路線を一段と強める可能性がある。
イランとの対立が深まる中、なぜリスクを伴う人事を強行したのか。5月に初の外遊で訪れたトランプ米大統領がサウジ支援を明確に示したことはサウジ外交の大きな成果だった。直前に訪米してお膳立てした新皇太子の功績でもあり、王室や国民の支持を得やすい環境ができたとの分析がある。
新皇太子は経済改革にも積極的。ただ、増税や各種手当削減など国民に痛みを強いることになる急進的な姿勢には危うさも指摘される。周辺国との関係悪化は経済改革にとっても足かせとなる。