「イスラム国」、2邦人殺害警告 身代金2億ドル要求
中東の過激派「イスラム国」を名乗るグループが20日、身代金を払わなければ拘束している日本人2人を殺害すると警告する映像をインターネット上で公開した。動画に映された2人の人質は千葉市の湯川遥菜さん(42)と、フリージャーナリストの後藤健二さん(47)とみられ、政府が確認を急いでいる。事実ならイスラム国が日本人殺害を警告する初のケースとなる。安倍晋三首相の中東外交にとって大きな試練となる。
【カイロ=押野真也】「イスラム国」のメンバーとみられる男は公開された映像で2億ドル(約236億円)の身代金を「72時間以内」に支払うよう要求した。安倍首相が中東歴訪で表明したイスラム国対策での各国への支援を批判した。
映像は、アラビア語と英語で「日本政府と日本国民へ」と題されている。黒い衣服を身にまとった覆面の男がサバイバル・ナイフを持って立ち、両側にオレンジ色の服を着た男性2人をひざまずかせている。
撮影場所や映像の信ぴょう性は不明だ。男は終始流ちょうな英語で話し「日本政府はイスラム国との戦いに2億ドルを払うという愚かな選択をした」と述べた。
安倍首相は16日からエジプトなど中東4カ国・地域を歴訪しており、17日にイスラム国の影響を受けているシリアやイラクなどの周辺国に、2億ドルの人道支援をすると表明した。この拠出額がそのまま身代金にされたようだ。
日本政府は身代金の支払いに応じるかについて立場を明らかにしていない。
安倍政権は原油などのエネルギー調達で依存している中東の安定が日本の国益に欠かせないと判断している。今回の歴訪も日本が積極的にこの地域に関わる立場を示すのが目的だ。
テロ対策で連携を深めるほか、インフラ整備などの経済支援も増やす方針を打ち出した。人道援助などで地域の平和と安定へ貢献しようとする安倍政権の「積極的平和主義」に沿った政策がイスラム国の狙い撃ちにあった格好だ。
政府は映像の公開を受けて首相官邸の危機管理センターに官邸対策室を設けた。首相は菅義偉官房長官に、事実関係の確認に全力を尽くし、関係各国とも協力して人命第一に対応するよう指示した。首相に同行していた中山泰秀外務副大臣を現地対策本部の責任者とするためヨルダンの首都アンマンに派遣した。
湯川さんはシリアの反体制派組織と行動を共にしていたもようで、昨年8月、この反体制派とイスラム国が交戦した際に捕らえられたとみられている。後藤さんはこれまでもジャーナリストとしてたびたびシリア入りし、日本で報告会などを開いていた。後藤さんのツイッターは昨年10月23日を最後に更新しておらず、行方が分からなくなっていた。
イスラム国はイラクとシリアにまたがる地域で勢力を伸ばすイスラム教スンニ派の武装勢力。その支配地域には、シリアとイラクの両政府の統治が及んでおらず、情報収集は難航しそうだ。
イスラム国は2014年6月に「国家樹立」を宣言した。これまでも米国人や英国人らを人質に取り、殺害する映像をインターネット上で公開するなど残虐さが際立っている。身代金は組織にとっての重要な柱になっているとみられている。
中心人物はイスラム教の預言者ムハンマドの後継者カリフを自称するバグダディ指導者。当初は国際テロ組織アルカイダの指導者であるザワヒリ容疑者に師事していたとされるが、昨年「イスラム国」とアルカイダは互いに絶縁を宣言した。