ロシア、米に硬軟両様 中東協力でウクライナ譲歩迫る
【モスクワ=古川英治】ロシアのプーチン大統領が9月の国連総会に出席するための訪米に合わせてオバマ米大統領と会談する方向で調整に入った。ロシアはウクライナで軍事介入を続け、米国への敵対姿勢を鮮明にする半面、イランやシリアの問題では米国に歩み寄る動きを見せる。任期終盤に入ったオバマ大統領が重視する中東問題への協力を呼び水にウクライナで譲歩を引き出す戦略が透ける。
プーチン政権は中東政策で硬軟両様で米国を揺さぶっている。オバマ大統領が最重要課題と位置づけたイラン核問題で最終合意を支持したのに続き、アサド政権と反体制派の内戦が続くシリア情勢を巡っても化学兵器の使用者を特定・処罰することで8月に米国と合意した。アサド政権支援一辺倒の政策を修正し、国連安保理決議につなげた。
米国が反対するイランへの高性能地対空ミサイル(S300)の供与は強行する構え。国連安保理の制裁で海外渡航が禁止されているイラン革命防衛隊の幹部をモスクワに招いたとの情報もある。イランへの影響力を確保する思惑もあるとみられるが、S300の輸出方針について、ロシア政府筋は「ロシアを無視するとどうなるかを示した」と話す。
プーチン政権はオバマ大統領がロシアとの全面対決を望んでいないと踏んでいる。ウクライナ領クリミア半島を武力で侵し核使用までちらつかせるプーチン政権に対し、米国防総省幹部らは相次ぎ「ロシアは米国の存在を脅かしている」と表明した。一方でオバマ大統領自身はイラン核合意の後、プーチン大統領との電話協議で「(ロシアが)重要な役割」を果たしたと持ち上げた。中東安定にはロシアの協力が欠かせないからだ。
米国は7月末、ウクライナ東部への軍事介入を続けるロシアに対し、追加制裁を発動したものの「対ロ強硬策はバイデン副大統領らが主導している」とロシア政府筋は見る。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国防総省が準備を完了したウクライナへのレーダー供与の承認をオバマ大統領が差し止めていると報じた。
欧州主要国の外交官も「オバマ大統領はウクライナ問題への深入りを避けている」と指摘する。ウクライナ東部の親ロ派武装勢力とウクライナ政府軍の和平合意の仲介はメルケル独首相に任せ、オバマ政権が本格的に和平構築に乗り出す動きはない。
ロシアはウクライナへの圧力を緩めていない。プーチン大統領は今週、クリミア半島を訪問した。ウクライナ政府によると、週初には親ロ派武装勢力によるウクライナ政府軍への大規模な攻撃があった。戦闘が続く中でウクライナ経済は苦境に陥っており、欧州外交官は「このままではウクライナを支えきれなくなる」と話す。
プーチン政権は11月の20カ国・地域(G20)首脳会議やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場も利用した米ロ首脳会談を模索している。非武装地帯の確保と、ロシアが要求するウクライナの地方分権などを盛り込んだ同国東部の停戦合意の履行期限を年内に控え、プーチン政権は有利な状況をつくるための外交攻勢を仕掛ける構えだ。