トランプ氏、窮余の「バノン切り」 政権瓦解回避

2017/8/20 1:14
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 トランプ米大統領は、一時は「陰の大統領」といわれた最側近、バノン首席戦略官・上級顧問を解任した。ホワイトハウスの内紛やトランプ氏の言動で政権が混迷を深めるなか、その「戦犯」とされてきた最側近を排除する窮余の決断で事態打開を図る。だがバノン氏が主導してきた排外的な政策に共感する白人労働者ら支持層の離反を招く恐れもあり、政権瓦解を回避するための綱渡りを迫られる。

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 「今月7日、ケリー首席補佐官と大統領に辞任を申し出た」。バノン氏は18日、保守系雑誌に対し、辞任は自発的なもので、大統領選でトランプ陣営に参画した昨年8月からちょうど1年で政権を離れるつもりだったと説明した。

 実態は異なる。ホワイトハウス高官は18日、「100%間違いなくケリー氏の決定だ」と語った。

 国土安全保障長官だった元軍人のケリー氏はトランプ氏に請われ、7月末にホワイトハウスを束ねる首席補佐官に就いた。ロシア疑惑や情報漏洩に揺れるホワイトハウスの「秩序を取り戻す」として、権限の掌握を進めている。そのケリー氏にとって、バノン氏は問題児だった。

 バノン氏は、政権の経済政策の要であるコーン国家経済会議(NEC)委員長に加え、トランプ氏の娘イバンカ氏とその夫、クシュナー上級顧問と鋭く対立していた。いずれも自由貿易や国際協調を重視し、穏健で現実主義的な路線を志向しているためだ。

 「中国とは経済戦争をしている」。こんな主張を展開し、孤立主義に傾くバノン氏と肌合いが合うはずもない。「しばしば口論」(ホワイトハウス高官)となり、クシュナー氏らはバノン氏の解任をトランプ氏に進言していた。

 外交・安全保障分野でも、バノン氏は国務省人事に介入し、ティラーソン国務長官と対立。同氏が反対した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」離脱を主張した。アフガニスタンやシリア問題への関与を主張するマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)には、バノン氏の古巣で、白人至上主義など極右的思想を掲げるニュースサイト「ブライトバート・ニュース」を通じて攻撃をしかけた。

 政権の安定をめざしホワイトハウス入りしたケリー氏にとって、バノン氏を切る以外の選択は残っていなかった。

 皮肉にも、とどめを刺したのはトランプ氏自身だ。

 「双方に非がある」。白人至上主義者と反対派との衝突事件を巡り、人種差別を容認するかのようなトランプ氏の15日の発言。誰もが感じたのは、バノン氏の色濃い影だ。

 政権の屋台骨を揺るがすひと言だった。世界中から批判を浴びただけではない。ユダヤ系米国人であるコーンNEC委員長が激怒し、17日には同氏辞任の観測が流れた。ただでさえ政権の政策遂行能力が疑問視されるなか、経済政策の司令塔まで失えば、企業や市場の「トランプ離れ」が一気に加速する恐れがある。

 「バノン切り」には、これ以上の動揺の拡大を防ぐ思惑がある。だが実情は政権瓦解の瀬戸際に追い込まれた末の決断だ。トランプ氏を熱狂的に支えてきた支持層の離反という副作用を生みかねないもろ刃の剣だといえる。

 「我々が選挙で勝ち得たトランプ政権は終わった」。バノン氏は辞任後、こう言い捨てた。すでにプリーバス前首席補佐官やスパイサー前大統領報道官ら共和党主流派の流れをくむ幹部も去った。バノン氏に近い共和党議員は18日、「(大統領執務室のある)ウエストウイングに保守派がいなくなる」と嘆いた。

 バノン氏が唱える移民排斥や保護貿易といった政策は、低学歴の白人労働者らトランプ支持層をひき付けてきた。4割前後まで下落した政権支持率を岩盤のように支えるこの層が見限れば、政権低迷の底は見えなくなる。

 しかも人種差別を巡るトランプ氏の発言を受け、助言役の企業トップの離反が相次ぎ、すでに政権基盤の液状化が進んだ。「バノン氏更迭は、トランプ氏が人種差別的な考え方や政策を後押ししてきた事実を消すものではない」(民主党のペロシ院内総務)

 綱渡りで政権を保つ苦境を顧みることなく、トランプ氏は奔放な発言を続ける。19日朝にはツイッターにこう書き込んだ。「バノン氏に感謝したい。いんちきのヒラリー・クリントン(元国務長官)を相手にした大統領選に参加してくれた。素晴らしい!」

(ワシントン=永沢毅)

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