ブラジル、前大統領訴追回避へ奇策 重要閣僚に起用

2016/3/18 1:16
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【サンパウロ=宮本英威】ブラジル政府は16日、ルラ前大統領を17日付で重要閣僚の一つである官房長官に起用すると発表した。ルラ氏は国営石油会社を巡る不正献金疑惑で検察当局などの捜査対象になっている。ルセフ大統領は自らの後ろ盾であるルラ氏を入閣させて捜査当局から「隔離」する奇策を繰り出したかたちだ。議会とのパイプが太いルラ氏の起用でルセフ氏自身も弾劾のリスクを減らしたい思惑もあり、野党や国民は一斉に反発している。

与党中枢を巻き込んだ汚職疑惑や深刻な経済情勢を巡り、ブラジル全土でルセフ氏の退陣を求めて大規模な反政府抗議デモが発生するなど政権の苦境が深まっている。

ルラ氏を要職に就けて閣内に「避難」させるという異例の措置により、「ルセフおろし」が激しくなるなど政治情勢がさらに混迷する恐れがある。8月に迫ったリオデジャネイロ五輪の運営にも影響を及ぼしそうだ。

「政治経験が豊富で、ブラジルに何が必要かも理解している」。ルセフ氏は16日の記者会見で、ルラ氏を政権中枢に起用した理由をこう述べたが、額面通りに受け取る向きは少ない。

ブラジルでは最高裁しか現役の閣僚の捜査や逮捕を承認する権限がなく、ルセフ氏としては国内法の規定を逆手にとってルラ氏を入閣させ捜査を事実上、妨害したとの受け止めが大勢だ。連邦警察などの捜査は滞るのが確実だ。

2003~10年に大統領を務めたルラ氏はブラジルの高度成長をけん引し、カリスマ的な人気を誇った。だが退任後、国営石油会社ペトロブラスの取引を巡って複数の大手建設会社から利益供与を受けた疑惑が浮上。捜査当局は、4日にルラ氏に対する事情聴取を実施したばかりだった。

ルセフ氏としては今回の人事をテコに政治的な窮地を打開する思惑もありそうだ。ルセフ氏は野党関係者から弾劾請求を出され議会の機能が著しく低下している。

現在、与党は議会多数を押さえているが、主要連立政党のブラジル民主運動党(PMDB)は連立を維持するかどうかの検討も始めている。連立与党内にはルラ氏の信奉者が多く、議会折衝にもたけている。ルセフ氏はルラ氏を調整の要である官房長官に起用することでPMDBの政権離脱を食い止めるとともに、弾劾に同調する動きを阻止したいようだ。

ルラ氏入閣の発表を受けた16日夜、首都ブラジリアなどではさっそく反政府抗議デモがおきた。最大都市サンパウロでは17日朝、目抜き通りに多くの人が集まった。参加者は「ルラ、出て行け」などと叫び、笛や破裂音を鳴らした。車道の一部は一時車が通れない状態となった。300万人を動員した13日の全土での大規模な反政府抗議デモに続く動きだ。

金融市場でも今回の人事の波紋が広がっている。ルセフ大統領がルラ氏と組んで予算のばらまきに動くとの観測もあり、「財政健全化がないがしろにされる」(格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスのサマル・マジアド氏)との懸念が広がっている。

ブラジルの15年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は2年連続で赤字となった。昨年9月以降、大手格付け会社3社はブラジル国債を相次いで「投機的」水準に引き下げたばかりだ。

ブラジルの金融市場では17日午前、通貨レアルと主要株価指数ボベスパは前日終値比で上昇している。「保護主義的なルセフ政権が追い詰められている」との見方が市場で好感されている面もあるようだ。

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