EU、税逃れ監視「網の目」 大企業に国別報告義務付け提案
【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)の欧州委員会は12日、大企業の税逃れを防ぐ新制度を欧州議会や加盟国に提案した。EU域内の多国籍企業に、利益を稼いだ国で税金をしっかり納めているか域内の国別に報告するよう義務づけるのが柱。加盟国の税ルールの違いを巧みに利用した税逃れを政府が効率的に監視できる「網の目」を張りめぐらす。
欧州委の試算によると大規模な多国籍企業による税逃れで、EU域内では年間500億~700億ユーロ(6.2兆~8.7兆円)の税収を失っている。加盟国で異なる税率や優遇措置など複雑に絡み合ったEU域内の税ルールが、多国籍企業に税逃れの余地を与えているとみる。
新制度は多国籍企業に狙いを定め、収益や納税額といった多国籍企業内のお金の流れをEU加盟国の税務当局が把握しやすいようにする。世界全体の売上高が7億5000万ユーロ(約930億円)超の企業が対象で、域内で6000社を超える見通しだ。
多国籍企業が報告を求められるのは、課税額や実際の納税額、売上高、利益、従業員数など。企業が活動しているEUの加盟国ごとに情報を仕分けしたうえで、それぞれの加盟国に報告する。利益を稼いだ国で適切に納税しているかを把握しやすくする狙いだ。
本来納めるべき税金の額と実際の納税額に差がある場合は、企業側に説明を求める。税務当局にとっては企業内の不審なお金の流れを従来より見つけやすくなり、税逃れを防げると欧州委はみている。
報告した情報は一本化したうえでウェブサイトで最低5年間、公開することも求める。税務当局だけでなく、民間団体も監視できる利点がある。
欧州委は世界の首脳らのタックスヘイブン(租税回避地)を使った税逃れの実態を暴露した「パナマ文書」問題も意識。タックスヘイブン対策を強化する構えもみせた。
新制度は多国籍企業のEU域外の納税額については、原則として総額のみの公表を義務づけて国別の情報を求めない。パナマなどタックスヘイブンでの納税の実態が不透明なままで、税逃れの隠れみのとなる恐れがある。欧州委は課税逃れの防止に協力しない国・地域については、多国籍企業に詳しい情報開示を求める特別措置も検討する。
タックスヘイブンに関するEU共通の「ブラックリスト」も作成を急ぐ。現状はEUの全28加盟国のうち、パナマを合法的なタックスヘイブンだとみなしているのは10カ国に満たない。域内でバラバラな基準を一つにまとめ、共通リストを作る。税ルールの改善に応じない国・地域には「制裁」も検討する。半年以内のリスト作成を提案した。