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中東民主化のモデルに 平和賞にチュニジア組織

【カイロ=押野真也】今年のノーベル平和賞は、北アフリカのチュニジアで平和的な政権移行に貢献した対話組織「国民対話カルテット」への授与が決まった。チュニジアは2011年の民主化運動「アラブの春」の先駆けとなり、民主的な手続きを踏んで安定した政権移行を実現した唯一の国だ。ノーベル平和賞の授与は成功モデルとしてこれを後押しし、世界の地政学リスクの焦点となっている中東の安定につなげる狙いもある。

「国民対話カルテット」はチュニジアの労働組合や人権組織などの4者で構成し、イスラム勢力と、政教分離を重視する世俗派が対立する中、双方を説得した。新憲法の制定と議会・大統領選挙を実現させ、今年2月に双方が政権に参加する形で正式政府が発足するための原動力となった。

予想の声少なく

チュニジア関係者の受賞を予想する声は多くなかった。中東政治に詳しいチュニス大学のアブドルラティフ・ハナーシー教授は「予想外だったが、(中東や北アフリカ)地域で対話の重要性を認識させる大きな機会になる」と述べ、期待を寄せた。

シリア内戦が欧州の難民問題や米ロ対立の深刻化につながるなか、中東の安定に向けた「希望のともしび」としてチュニジアへの期待が大きいという認識が授賞決定の背景にある。

「アラブの春」ではリビアやイエメン、シリアがその後、激しい内戦状態に陥る一方、エジプトは軍がクーデターで政権を掌握し専制的な体制に後戻りした。一連の政変が中東・北アフリカに民主化をもたらすという夢を破り、かえって地域に混乱をもたらした。

しかも権力の空白は「イスラム国」(IS)のような過激派が勢力を増す土壌となった。チュニジアで「国民対話カルテット」が機能したのは幸運だった。同国では11年1月に独裁のベンアリ政権が崩壊した後、イスラム原理主義組織「アンナハダ」を中心とする連立与党が暫定統治にあたった。

難民の発生防ぐ

世俗派とイスラム勢の対話は、政権崩壊後の権力闘争が暴力に転じるシナリオを回避して、リビアやシリアのように大勢の難民を出さずにすんだ。「国民対話カルテット」は議員や有力なイスラム勢力の指導者らと面会を重ねたほか、一般国民を対象とした集会なども開催した。人権の尊重や男女平等、信教の自由などを明記した新憲法が14年1月に成立した。

ただ、チュニジアにも課題はある。今年は外国人観光客を狙ったテロ事件が相次いでおき、日本人観光客も犠牲になった。経済低迷も続き、隣国のリビアからは戦闘員が流入し、国内では今でもテロが大きな脅威になっている。今回の授与は、チュニジアの民主化と安定が揺らぐことを防ぐ狙いもある。

日本にとっても、ひとごとでない。過激派ISは日本も標的にすると明言しており、実際に日本人が拘束され、殺害される事件も起きている。ISにはチュニジアから3000人以上が戦闘員として加わっているとされ、戦闘員の供給国の一つになっている。ISの弱体化にはチュニジアの安定が不可欠だ。日本政府はインフラ整備などを通じてチュニジアへの経済援助を続けてきた。

▼アラブの春 中東と北アフリカで相次いで独裁的な長期政権を倒した民衆運動。2010年12月、チュニジアで青年が警察官から嫌がらせを受けたことに抗議して焼身自殺をはかった。この事件を契機にチュニジアでは、当時のベンアリ大統領の強権体質や腐敗、所得格差の拡大などに反発する民衆の反体制運動が高まり11年1月に政権が崩壊。チュニジアの代表的な花になぞらえて「ジャスミン革命」と呼ばれた。

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