仏、シリア領内空爆表明 難民問題解決に本腰
「イスラム国」掃討 英は実施
【パリ=竹内康雄】フランスのオランド大統領は7日の記者会見で、シリア領内の過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)」に対し空爆に踏み切ると表明した。仏軍はこれまでイラク領内のISに対し空爆してきたが、方針を転換して対象をシリアにも広げる。シリアから欧州に向かう難民が急増している現状を踏まえ、難民問題の根本的な解決にはシリア情勢の安定が不可欠と判断した。
一方、キャメロン英首相は7日、議会で演説し、英空軍の無人機が8月にシリアで空爆を行い、ISの英国人戦闘員2人を含む3人を殺害したことを明らかにした。シリアでは現在、米国と中東の有志連合が空爆をしているが、英国がシリアで空爆を行ったのは初めて。
オランド大統領はルドリアン国防相に空爆に向けた偵察を指示。仏軍機は8日にもシリア上空での偵察に入り、状況を分析した上で空爆を実施する見込みだ。
一方で、オランド氏は地上部隊の派遣の可能性については「従来の政策と一貫性がなく、非現実的だ」と否定した。
フランスは2014年9月、米国に続いてイラクへの空爆に踏み切った。イラクとシリアで勢力を伸ばすISがテロリストを養成し、欧州に送っているとの危機感が高まったことが背景にある。ただ、シリア領内での空爆を避けてきたのは、ISへの攻撃で西側諸国と対立するアサド政権を利する可能性があるとみていたからだ。仏国防省担当者は「ISをたたいても、アサド政権の勢力が伸びては意味がない」と語っていた。
こうしたなかで、欧州の難民問題というもう一つの喫緊の課題が浮上。シリアではISとアサド政権、別の反政府組織による武力衝突が発生し、多数の民間人の犠牲者が出ている。国民は戦闘に巻き込まれるのを避けるために難民となり、トルコなどの隣国に避難している。
しかし、ここへきて周辺の中東諸国が難民を抱えきれなくなり、より安定した環境や仕事を求めて難民が欧州に向かい始めたのだ。シリアの難民は近隣諸国分も含めれば、数百万人にのぼるという。
こうした緊迫した状況を受け、仏政権は戦略の転換を決断した。オランド大統領は「シリアの安定は、アサド政権の退任なしには、なし得ない」と、ISとアサド政権を倒す意志に変わりはないと説明した。アサド政権が退いた後、平和的な勢力が幅広く参加する新政府の樹立が必要と訴えた。
ただ、一部メディアは難民の中に過激派の戦闘員が紛れている可能性があると報じており、欧州各国の治安当局は神経をとがらせている。