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東証改革「失われた14年」 株取引時間の拡大見送り

日本足踏み、世界は先へ

東京証券取引所が、検討してきた現物株の取引時間拡大を見送ることを決めた。2000年と10年の議論で実現できず三度目の正直を狙ったが、証券会社や金融庁などの意見はまとまらなかった。東証の「失われた14年」。日本の株式市場は国際競争力を取り戻す機会をまたもや逃した。

11月25日、午前11時。弁当を食べながら普段は淡々と議事が進む日本取引所グループの取締役会が、この日は紛糾した。事務方が諮った時間拡大の見送り案に、メンバーの過半を占める社外取締役が次々とかみついた。「国際競争をあきらめるのか」「リーダーシップの欠如だ」――。

だが、どんなに厳しく責められても東証にはなすすべがなかった。その5時間後、日本取引所の斉藤惇・最高経営責任者と清田瞭・東証社長は神妙な面持ちで「見送り」の記者発表に臨んだ。

大手証券は冷淡

海外投資家を呼び込むために、午前と午後で合計5時間と、海外に比べて短い取引時間を延ばすのは東証の長年の懸案だった。水面下で動き出した昨年秋、「うちが決めれば野村や大和も従わざるを得ない」と首脳の1人は自信満々だった。

だが時間とともに東証の自信は懐疑へ、そして諦めへと変わる。

専門家を集めて今年1月に立ち上げた研究会は、本市場と別の午後9時~11時の夜間、午後3時半~5時の夕方、本市場の単純延長の3案を議論した。誤算は、清田社長が「(夜間を)やるべしという結論を出すと期待していた」議論が序盤から迷走したことだ。

新たな個人を取り込みたい賛成派のネット証券と、追加のコストに見合う売買増が期待できないと反対する対面型証券の主張は平行線のまま。7月に出た研究会の報告書は「まず、議論に最も時間を割いた夜間を検討していくべきだ」と記すのがやっとだった。

野村証券をはじめとする大手各社の冷淡な対応も、ハシゴを外す格好になった。

野村は時間拡大そのものには反対ではなく、当初は香港やシンガポールと取引時間が重なる夕方案を推していたという。企業の決算発表の時間帯が、夕方取引が始まる前の3時~3時半に集約されれば、投資家は結果を見てから売買できる利点もあると考えたのだ。

「野村がそう言うなら証券界は夕方案でまとまるに違いない」。こう東証が期待したのもつかの間、野村は8月に夕方案から降りてしまった。検討の結果、投資信託の基準価格算出に与える影響など夕方案が抱える問題が浮上したからだった。

大手の協力が得られなければ、大口の機関投資家の取引参加は期待できない。業界の足並みがそろわず混乱する中、金融庁がトドメを刺した。「多様な投資家が参加して公正な株価が形成されることが最も大事」。金融庁は東証に対し、こう繰り返すようになった。

金融庁も慎重に

実は昨年、政府の成長戦略の目玉づくりを狙って時間拡大を東証に持ちかけたのは、その金融庁だ。だが対面証券が強い不満を漏らす様子をみて慎重姿勢に転じた。

大手証券や金融庁に突き放されて孤立無援に陥り、被害者に見えるが、東証自身の責任も大きい。時間拡大でどのくらい売買が増えるのか、説得力のある予想値を最後まで参加者に示さなかったのだ。「東証も結果責任を恐れた。株式市場をこう変えたいという明確なビジョンを強く示せば結論は違ったはず」。大手証券の首脳は言う。

「賛成派、反対派とも主張は昔とほぼ一緒。14年前と同じことが繰り返された」。過去の時間拡大議論の経緯を知る東証幹部は唇をかむ。証券界は株というリスク商品を顧客に勧めるが、自らは市場のインフラ改善のためのリスクをとらない。改めて突きつけられたのは、こんな現実だ。

日本が足踏みしている間に、世界は猛烈なスピードで先へ行く。10年前に日本の約4分の1だった中国3市場(上海、深圳、香港)合計の株売買代金はいまや日本の約2倍。上海と香港市場の相互接続も始まった。

東証の関係者は「遠からず議論を再開したい」と焦りを見せる。これ以上、小田原評定を続ける余裕はない。(川崎健)

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