年金 積極運用に転換 GPIF、株で5割に
約130兆円の公的年金資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は31日、株式運用の割合を5割に高めることを柱とする新しい資産構成の目安を発表した。年金制度を維持するために積極運用に転じる。ただ少子高齢化できしむ年金制度を運用頼みで維持するのは限界がある。年金額の抑制して制度そのものの持続性を高める改革も急務だ。
新しい運用比率の特徴は、株式と債券を半分ずつにし、国内資産は6割、海外資産は4割にしたことだ。今までは6割を占めていた国内債券の割合は35%まで下げる。
実際の資産構成が目安から離れることを許容する範囲は今よりも広げる。国内債券は上下10ポイント、国内株式は上下9ポイント離れてもよいことにした。
GPIFは今後、新たな目安に沿った資産構成にするため、市場への影響に配慮しながら資産の売り買いを進める。移行完了までの期間は「決めていない」(三谷隆博理事長)としている。
インフラや未公開株、不動産といったオルタナティブ(代替)投資の資産区分を設けることは見送った。これらは投資内容に応じて国内外の債券や株式に分類し、総額が資産全体の5%を超えないようにする。
「虎の子」の年金積立金の運用先を株式や海外に移すのは、現金制度を維持できるだけの運用益を確保するためだ。今の制度に必要な利回りは1.7%。低金利の国債で運用しても目標を達成できない。GPIFの試算では、現在の運用比率を続けた場合、年金制度が求める積立金の予定額には届かなかったという。
31日記者会見した三谷理事長は「全額国債運用なら、1%金利が上昇すれば、(債券価格が下落するので)10兆円の評価損が出る。国債は安全で、株式は危ないという考えがあるが、そうではない」と説明した。
日銀が大規模な金融緩和で国債を大量購入していることもGPIFが国債運用を減らす判断を後押しした。国債を売りやすい環境にあるとみてためだ。ただ日銀が決めた追加緩和とGPIFの運用比率見直しのタイミングが重なったことについて、三谷理事長は「同じ日になったのは全くの偶然だ」と述べた。
海外の公的な年金基金は株式運用の比率が高い。カナダは債券が28%、海外株が40%、国内株が9%となっている。カリフォルニア州の公務員の年金基金(カルパース)は債券が17%で、株式は63%だ。中長期的には債券運用よりも株式運用の方が、リターンが高いとみているからだ。
GPIFは海外株比率の目安を12%から25%に上げる。先進国の株式だけでなく、成長著しい新興国の株式にも積極的に投資する方針だ。
今後は運用体制の見直しを急ぐ。GPIFの職員はわずか80人。カルパースの2600人やカナダ基金の900人よりはるかに少ない。今後は金融のプロを採用するほか、組織体制の改革にも着手する。
ただ年金制度を維持するには運用改革だけでは力不足だ。現行の年金制度は1.7%の運用目標を達成するだけでなく、女性の就労が今より大幅に増えることが前提だ。これらはかなり高い目標なので、前提が崩れれば運用益頼みの構図が一段と強まり、より大きな運用リスクを抱え込むことになりかねない。
少子高齢化の進展に合わせて年金額を抑える「マクロ経済スライド」の厳格適用など年金制度の持続性を高める改革を急ぐことが不可欠だ。
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