/

経済財政白書の要旨

日本経済は2012年11月を底に緩やかな回復基調が続く。今回の景気回復は戦後3番目の長さの可能性がある。労働市場では需給が引き締まり、人手不足の状況はバブル期並みとなった。物価はデフレ状況にはないが、デフレを脱却し安定的な物価上昇が見込まれるまでには至っていない。

今次景気回復局面の特徴】雇用・所得環境の改善や株価の安定などを背景に、個人消費は緩やかに持ち直している。失業率の低下幅は過去の景気回復を大幅に上回る。名目賃金の伸びはいざなぎ景気やバブル景気と比べると小さい。

消費者物価や国内総生産(GDP)デフレーターがプラスに転じており、デフレではない状況だ。今次景気回復局面は設備投資や民間住宅など固定資本形成を中心とした経済成長といえる。

労働需給の引き締まりが賃金上昇に与える影響は弱くなっている。労使のリスク回避的な姿勢が賃金引き上げを抑制している可能性がある。

最近の消費動向の検証と消費喚起に向けた展望】スマートフォン(スマホ)の普及や、単身化など世帯構造の変化が日本の個人消費の構造を大きく変えている。消費支出では、住居・電気などが最も大きな寄与。単身化による世帯数の増加や都市部に住む人口の増加が要因と考えられる。

14年以降、家計の平均消費性向は低下。若年層では予想生涯所得の低下や身軽さを求める嗜好の変化が消費の下押しに寄与している可能性がある。40~50代では社会保険料の増加など公的負担が世帯の可処分所得の伸びを抑制している。

消費の喚起には、将来の所得・雇用環境に対する信頼感の回復と、潜在需要の喚起、住宅など保有資産を流動化して家計の購買力を底上げすることが重要。

財政金融政策の動向日銀の金融緩和により企業金融や住宅ローン金利が低下。銀行の貸し出しは個人や非製造業向けを中心に増加した。金利の低下や15年の相続税の税制改正の影響で、特に貸家の着工が大幅に増加。

家計のバランスシートは資産・負債がともに増加。資産は現預金比率が高水準に。負債は住宅ローンのほか、消費者金融なども増加している。企業は収益が回復し、幅広い業種で設備投資向けの資金需要が増加している。

国・地方の基礎的財政収支は09年度を底に改善している。基礎的財政収支の20年度までの黒字化と債務残高GDP比の安定的な引き下げの実現が重要。

バブル期並みの有効求人倍率など人手不足感が高まっている。長期的にも人手不足の継続が見込まれ、持続的成長には、労働参加率を高め生産性を向上させる取り組みが求められる。「働き方改革」の推進は日本経済全体の活性化に資する。

労働市場の課題】労働供給の制約や労働生産性の伸びが鈍い状況が長く続けば、所得が増えず消費や投資需要が抑制される。働き方の抜本見直しは課題克服の鍵となり得る。家庭の事情から就業できない、希望しない人も在宅就業を含めた多様な働き方が浸透すれば、就職を希望し実際に就職する可能性も高い。

正社員と非正社員の所定内給与の差は縮小したが、2016年時点で1.5倍ある。非正社員は職業訓練の機会が少なく、人的資本形成が不利な点も反映されている可能性がある。非正社員の正社員への転換は限定的な状況がうかがえる。

フルタイム労働者の1人当たり労働時間は景気後退期を含めても大きな変更がない。長時間労働が恒常化しており、生産性を最大にする労働時間より10%長いという推計もある。

働き方改革の生産への影響】労働生産性の向上と労働参加の拡大につながる。

同一労働同一賃金など処遇改善で非正社員は仕事継続の意欲が高まり、企業も能力開発を行う意味が高まる。1%の能力開発費増加に伴い、全要素生産性(TFP)は0.03%増加する。

国際的には、労働時間の10%減少で労働生産性が25%高まる関係がみられる。創設年が新しい企業は長時間労働是正とテレワークの生産性改善効果が高い。

労働時間の短縮による生産性向上には資本装備率の上昇が重要だが、非製造業は低下している。課題を認識しつつも投資が十分に行われていないのが現状だ。非正規雇用の処遇改善は女性や高齢者の労働時間を長くする効果も考えられる。

働き方改革の国民生活への影響】処遇改善や労働参加の拡大は低所得者の所得を底上げし、貧困率の改善や消費の下支えにつながる。最低賃金の引き上げもあり有業世帯の貧困率は低下している。

働き方改革を進めるために】テレワーク普及などにはICT化投資の強化が必要だが、進展していない。職務範囲の設定など難しい管理も求められる。転職が不利にならない柔軟な労働市場の確立も重要だ。円滑な労働移動で、国全体の生産性も高まる。労働基準監督官の人数は海外より少ない。ルール順守のため、監督体制の充実も重要だ。

インターネット上でデジタル化された財・サービスの流通が加速し、新しい技術革新が経済社会の大きな変化を引き起こしつつある。これらは第4次産業革命とも呼ばれる。少子高齢化・人口減少が進む中で技術革新に対応できれば、人手不足を克服し、生産性を向上させることで、豊かな国民生活を実現できる。

技術革新が生産性に与える影響】我が国では、諸外国に比べ1人当たり研究開発(R&D)投資は小さくないが、TFPや企業収益に結びつきにくい。企業の多くが(1)新事業よりも既存事業の改良に注力している(2)売上高の一定割合に投資額をとどめる(3)オープンイノベーションの取り組みが不足していることが背景にある。

サービス業でICTが十分に活用されていない。サービス業は経済に占めるウエートが高まっており、中小企業の比率も高いため、効率的な生産体制が整備されないことが、経済全体の生産性向上の重し。

先端的な技術力を持っている高生産性企業の生産性は11年度以降伸び悩んでいるほか、高生産性企業と低生産性企業との間の格差は拡大している。イノベーションのけん引力が低下し、先端的な技術を持つ企業から遅れている企業へのイノベーションの普及も滞っている可能性がある。

新規技術を導入すると、企業は生産性上昇率を高めることができる。プラスの効果が大きい順番では、AI、IoT・ビッグデータ、3Dプリンター、ロボット、クラウド。効果が大きい技術ほど、我が国企業で導入が進んでいない。

技術革新が経済社会・国民生活に与える影響】個人のニーズに合った財やサービスを必要な時に必要なだけ消費することが可能となってきている。そうした財・サービスの価格が低下することで、インターネットを経由した消費支出が拡大。その一部は既存の消費の代替だが、いつでもアクセスできるなど利便性が高まり、新たな需要を作り出している面もある。

新規技術の導入に前向きな企業の多くは、労働需要を高め、収益の拡大と高スキル労働者への需要増によって、平均賃金も上昇する。今後、多くの企業が新規技術を導入することで新たな需要の創出が進めば、労働需要と賃金の増加につながると考えられる。ただ、労働者の技能や職種によっては、新規技術によって代替される可能性がある。

グローバル化のメリットを一部の労働者や特定の業種・規模の企業だけでなく、幅広い経済主体で享受するためには、成長産業の振興と当該産業への人材移動を促していく必要がある。職業教育訓練等のリカレント教育等の充実など人材への投資が求められる。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連企業・業界

企業:

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン