規制改革、小粒の182項目 解雇の金銭解決は先送り
政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)は16日、約180項目の規制緩和策を盛る答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。焦点となっていた不当解雇の金銭解決制度は、検討のための有識者会議の設置を書き込むにとどめ、事実上の先送りとなった。病院と薬局の分業や理美容業の業際規制など「岩盤」に着手はするものの、過去2回の答申に比べ「小粒」との声も多い。

答申は(1)健康・医療(2)雇用(3)農業(4)投資促進(5)地域活性化――の5分野で182項目を挙げた。安倍首相は答申後、「(既存の制度を)放っておきたいという気持ちを振り捨てて、さらに前を見て規制改革に終わりはないという精神で取り組んでいきたい」と述べた。政府は答申を反映した改革の実施計画を今月末にも閣議決定し、成長戦略の柱の一つに据える。
混合診療の拡大、農協改革など目玉のあった昨年に比べ、小粒な印象だ。不当解雇の金銭解決は昨年の規制改革の実施計画で検討する方針が決まっていた。厚生労働省は15日に海外の制度の実態調査を公表した。今回の答申では年内に「議論の場を速やかに立ち上げる」と明記したが、実施時期は示さなかった。
医薬分業や理美容業など「岩盤」とされた分野の見直しにも着手はしたが、病院に隣接する薬局との間にフェンスを設ける義務は改めるといった一部の緩和にとどめた。処方箋を受け取った患者が公道を隔てた薬局に向かう不便は残る。

全従業員が理美容の両資格を持つ店舗では、理美容の兼業を認める。だが両資格の保有者は現在約1万2千人にとどまり、兼業店舗が広がる見通しは立たない。一般の家で泊まる客をもてなす「民泊」は、イベント開催時は旅館業法上の許可が不要であることを明確にするが、平時の受け入れは検討を続ける。
岡議長は答申後の記者会見で「(これまでの改革項目の)約8割が措置済みに到達した」と成果を強調した。だが、株式会社の農業参入など、議論が進まなかった重要課題もある。
目玉改革に切り込めなかった一因は、昨年打ち出した農業・雇用関連の改革で、改正法案を国会に提出していることだ。農協改革関連法案は地域農協を束ねてきた全国農業協同組合中央会(JA全中)の監査・指導権をなくす内容で、民主党は対案を提出している。
労働基準法改正案は時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の新設を盛り込んでおり、民主党などは「残業代ゼロ法案」と批判している。労働者派遣法の改正案をめぐっても与野党が激しく対立する。政府が新たな雇用改革を提起すれば、国会審議がさらに難航する懸念があった。
全体としては検討中の項目が多く、スピード感に欠ける面は否めない。
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