ybさん、夫婦で資産2億円の秘訣(投信ブロガー)
ブログ「Passiveな投資とActiveな未来」を運営する「yb」さんは東証1部上場の大手製薬会社で研究開発に従事している40歳代半ばの男性。都内の賃貸住宅で、共働きの妻と長女の家族3人で暮らしている。
サボテンをうまく育てるのに手をかけすぎてはいけないのと同様で、指数連動(パッシブ)型インデックスファンドのほったらかし投資で資産を増やし、家族皆が充実した日々を過ごしていくという意図を、ブログ名とサブタイトルの「インデックス運用を中心としたサボテン投資で活き活きとした未来を手に入れる」に込めた。
その狙いは見事に実を結び、最近、夫婦合わせた運用資産額が2億円を超えた。今年の夏休みには家族でイタリア旅行を満喫。金融危機の局面での冷静沈着さを示す書き込みも参考になりそうだ。ybさんに資産2億円に至った秘訣を聞いた。

個別株投資の失敗からインデックス投資へ
――投資のきっかけを教えてください。
「1999年に結婚しました。ちょうど年金不安などが叫ばれ始めたころです。夫婦の老後のことが漠然と気になり、投資で不安を解消しようと思い立ちました」
「最初に買ったのは個別株です。マネー誌で紹介されている銘柄をそのまま試しました。ただ、投資に対する自分自身の軸を持っていなかったので、うまくいかないのは当然でした。2001年にはアクティブ(積極運用)ファンドも買ってみましたが、IT(情報技術)バブルの崩壊で大幅に元本割れし、塩漬け状態になりました」
「その次は外国為替証拠金取引(FX)にも手を出しました。最初は利益が出ていましたが、途中からあまり勝てなくなりました」
――インデックス投資を始めたのはどうしてですか。
「もっと投資の勉強をするしかないと思って、本を読んでみたところ、『ポートフォリオ運用』や『インデックス投資』という方法があるのを初めて知りました。それで、インデックスファンドを組み合わせる国際分散投資を始めてみたのです。05年のことでした」
「ただ、当初は自分のリスク許容度も分からず、どんな資産配分が適当なのか全く見当がつかなかったので、本に掲載されていた標準的な資産配分をほぼそのまま採用しました。ほったらかしたまま資産の成長を見守る『サボテン投資』を始めたのもこのころです」
「その後は、インデックス投資関連の有名な本を読み、06~07年ごろにはインデックス投資の効用にますます傾倒。アクティブファンドは徐々に売却していきました」
ブログを通じたリアルな交流が心のよりどころ
――ブログを始めた理由を教えてください。
「インデックス投資を始めたものの、当時はまだ米国に比べコストが高く、ネット証券でも商品が十分にはそろっていませんでした。古参の投信ブロガーの方々が消費者としての声を発していたので、私もインデックス投資に関わる環境改善の一端を担いたいと思い、07年にブログを開設しました」
「翌年の08年には、金融危機で運用資産額が大きく元本割れしました。先行きへの恐怖心もありましたが、ブロガー仲間同士で集まりお酒を酌み交わしながらお互いの投資方針を話し合うと、不思議と気分が落ち着きました。リアルな交流は心のよりどころでした。そんなつながりもあって、昨年からはインデックス投資家の祭典である『インデックス投資ナイト』の実行委員に加わりました」
投資元本は夫婦で毎月70万円
――2億円の資産を積み上げた秘訣を教えてください。
「投資の元手は夫婦合わせた給与収入です。口座は別々ですが、夫婦で同じファンドをほぼ同額ずつ購入しています」
「具体的には、10万円でインデックス投資をスタートした後は1年半あまりかけて、ためていた預金3000万円を元手にファンドを購入。その後は夫婦で同額の月35万円を出し合い、毎月70万円で積み立て投資を継続しています。年間の投資額は夫婦合わせた手取り年収の6割程度です」
「11年の秋から13年初めまで米国の大学に社費留学の機会を得ました。家族で移り住んだので夫婦ともに非居住者となり、その間は積み立て投資ができません。そのため留学前までの9カ月くらいは、頑張って積み立ての金額を2倍近くまでアップしました」

「運用資産額の推移を見ると、08年から12年にかけ元本割れしていますが、留学している間もほったらかしにした結果、13年に帰国してすぐに元本を回復しています(図A)」
「18年7月末時点の投資元本は累計で約1億4000万円に達し、運用資産額は2億円を超しました。元本に対するリターンは13年間で約45%。年率換算で約3%になります」
「2億円を達成した理由は、夫婦共働きのため投資元本を大きくできたことと、ほったらかしの積み立て投資を止めずに継続してきたのに尽きると思います」
「インデックス投資は再現度が高いので同時期に同金額で同じ指数に連動するファンドを積み立てた場合、ほぼ同じ成果が得られます。例えば、『毎月の積立額を7万円にして私と同じサボテン投資を継続すると13年間で2000万円になったはず』と考えると、分かりやすいのではないかと思います」
年齢に応じて株式の比率を決定
――資産配分の考え方を教えてください。
「投資初期の資産配分は内外の株式と債券にバランス良く分散投資する標準的なものでしたが、今は『株式の割合(%)は100から年齢を引いた数値が適当』という、年齢に応じて株式比率を変える教えに従っています」

「そのため、現在の資産配分の目標値は内外の株式が60%で、日本債券と安全性の高い流動性資産を合わせて35%、内外の不動産投資信託(REIT)を5%としています。実際の資産配分もほぼこれに近いものです(図B)」
「内外の株式の比率は、世界の株式市場の時価総額比を意識して海外株の比率を多くしています。以前保有していた外国債ファンドはすべて売却しました。日本債券と流動性資産は資産全体の値動きをマイルドにするための緩衝剤の役割を持ち、原則年1回のリバランス(配分の再調整)時にも活用します。この資産配分でリスクは年率12%、期待リターンは年4%程度です」
「なお、家族全員の年間生活費の2年半分程度を生活防衛資金として預金し、運用資金とは分けて保有しています」
――つみたてNISAは活用していますか。
「夫婦ともに、つみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)もフルに活用し、併せて企業型DC(確定拠出年金)でインデックスファンドを積み立てています」
「ファンドは海外株ETF(上場投資信託)を含め20本以上保有していますが、現在、積み立て投資しているのはコストの安い三菱UFJ国際投信とニッセイアセットマネジメントのインデックスファンドを主体に8本です。税務処理が面倒なので海外ETFは新たに購入していません」
分からないものには投資すべからず
――投資初心者、特に投資が怖いという人にアドバイスを。
「よく理解しないまま投資を始めると、怖さが付きまといます。経済や株式の仕組みをしっかり理解して、長期的には値上がりする商品だと納得して購入するのが肝心だと思います」
「自分で理解できない商品を購入してはいけません。私自身も過去に、オルタナティブ(代替投資)型として盛んに宣伝していたヘッジファンドを組み合わせたファンドを購入したことがあります。結局、運用成績は今ひとつです。『よく分からない商品には決して手を出すべからず』という自戒を込めて、ごくわずかですがこのファンドは継続保有しています」
「大幅な下落局面に出くわした時、そこで投資の継続を止めてしまわないよう、自分が許容できそうなリスクに合わせた資産配分にしておくのも大切です」
「そして何よりも、資産形成の元手は毎日働いて得る収入です。元手を増やせるよう本業の仕事に専念し、運用にはあまり手間暇をかけないのがサボテン投資の神髄です」
「その点、インデックス投資は手間がかからずもってこいです。自動的に積み立てる仕組みや、リバランスの仕方を一度決めてしまえば、後はほったらかしでかまいません。空いた時間で人生を楽しみましょう」
ファイナンシャル・インデペンデンス達成も出口はまだ先
――運用資産額が2億円を超えた今、具体的な出口を考えていますか。
「2億円を達成目標にしてきたわけではなく、あくまで家計の余裕資金でインデックス投資を続けてきた結果です。仕事を止めても年間の運用収益で家族が暮らしていける『ファイナンシャル・インデペンデンス(経済的独立)』状態に到達したように思いますが、今は仕事に社会的意義を感じ、公私ともに充実しています」
「これまで通り無駄な支出を抑えながら、夫婦で積み立て投資をし続けます。資産価格が上がるのはもちろんうれしいし、下がっても安く買えてうれしいという心境です。出口についてはまだ何も考えていません」
(QUICK資産運用研究所 聞き手は笹倉友香子、高瀬浩)