伝説のランダム・ウォーカー、株急落に緊急発言
バートン・マルキール氏と言えば「ウォール街のランダム・ウォーカー」の著者で、伝説の投資理論家だ。相場が上がるも下がるもランダム(予測は不可能)と説く。Buy and hold(長期保有)を一貫して勧め、インデックス投資の理論的支柱となっている人物である。
そのカリスマが昨日のニューヨーク(NY)株急落について、メディアに緊急生出演してコメントした。
「売るな! ワクチンも追加経済対策もいつかは来る。投資家が売り買いのタイミングを判断しても詮無きこと。長期インデックス投資に徹しろ」
さらに、ESG(環境・社会・統治)投資重視傾向にも批判の一石を投じた。
「企業の良しあしも、容易に判断できるものではない。特にESG投資を看板にするETF(上場投資信託)には要注意だ。ESGの条件を満たす企業か否かを区別するのは難しい。ESG投資なら、せいぜい再生エネルギー関連くらいか」
これに対しては、ウォール街内部からも賛否両論が出ていたが、88歳にして健在の御大である。語り口は明快だ。10歳以上年下の2人の大統領候補者の討論より要点をまとめ分かりやすい。
さて、そのNY株急落だが、「青い波」を織り込みつつあった市場に、これまた一石を投じる結果となった。
欧米で深刻な感染再拡大が進行中だが、なにせタイミングが悪い。大統領選挙の前週だ。今こそ追加財政支出が喫緊の課題なのに、その可否が政争の具にされている。昨日はNY寄り付き前にクドロー米国家経済会議(NEC)委員長がテレビ生出演で「交渉はスローダウン」と語った。メドウズ大統領首席補佐官は「コロナウイルスが制御不能の可能性」に言及した。一般メディア報道では、全米各地で地域限定のロックダウンが検討中と報道される。例えば、ユタ州ソルトレークシティーでは、医療崩壊寸前で、一般診療サービス提供の割当制が検討されている。別の事例では学校再開がオンライン学習へ逆戻りする可能性も指摘される。
春の全土ロックダウンに比べ「ロックダウン・ライト(軽い)」とされるものの、今後冬季にかけ予断を許さない。
市場が懸念するのは、11月3日の投票日から来年1月20日の大統領就任式まで政治空白期が生じるリスクだ。その間にコロナ「冬の波」が急速に悪化すると、政治的対応が後手に回るかもしれない。バイデン氏勝利でも、レームダック(死に体)化したトランプ大統領が選挙結果を認めずホワイトハウスに居座るシナリオも絵空事とはいえない。上院選挙もかなりの接戦が予想され、ねじれ議会のまま、決められない状況も考えられる。
その結果、10~12月期の経済成長率の回復も危ぶまれ、同期の企業業績への影響が懸念される。
おりしも今週はNY株式市場の決算シーズンと重なる。
特に29日の木曜日が「スーパー・サーズデイ」と呼ばれ、アップル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、グーグルなど主要企業の決算が特に集中する日となる。
なお、先週の両大統領候補のテレビ討論会で、トランプ氏がウォール街からの政治献金について、バイデン陣営のほうがはるかに多くの額を受け取っていると批判したこともウォール街の話題になっている。それは事実とみられており、ウォール街内では、バイデン政権誕生に備えた「ヘッジ」と位置付けられている。株価を重視して金融規制の緩和路線を歩んできたトランプ氏に対して、バイデン氏は、「トランプ氏が株価ばかり心配している」とマーケットとは距離を置く発言を繰り返している。バイデン増税もやはり気になる。カリスマ・ヘッジファンドのポール・チューダー・ジョーンズ氏は「民主党勝利なら、株価はまず急騰しようが、その後、増税効果がジワリ企業決算を下押しする」と予測して話題になった。
そこで、「当選の節はお手柔らかに」とばかりに政治献金は厚くしておくことが、バイデン・リスク・ヘッジとなるのだ。
トランプ再選でトランプ相場継続シナリオのほうが「無難」とのウォール街の本音も透ける。
マーケット・アナリストたちは、ペンシルベニア、ミシガン、ノースカロライナなど、どの激戦州でトランプ氏が勝利すれば、全土の獲得票数競争では及ばずとも、大統領選挙には逆転勝利できるか、シミュレーションに余念がない。
かくして、深掘りすればするほど、選挙後の市場予測は視界不良となり、「青い波」を先取り気味のマーケットは反省モードに入っているのだ。

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