2018年8月17日(金)

野村証券「LGBT」配慮に向けた研修制度 リーマンの文化学ぶ

2015/10/23 13:08
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 証券業界で外資系を中心に「LGBT」と呼ばれる性的マイノリティーへの理解を深め、福利厚生などでも彼らが活躍できる職場環境を整備しようとする取り組みが広がっている。日本でもLGBTの数は全人口の7.6%に上るとされる。保守的とも見られやすい金融業界でも、開かれた職場作りによってLGBTを含む社員全体の能力を引き出して社内の活性化を目指す。同時にこうした取り組みのアピールで、就職活動を控える学生の関心も高めたい考えだ。

 「見た目と履歴書の性別が一致しない学生もいるかもしれませんが、面接では人物本位でしっかり彼らの資質を評価してください」――。野村ホールディングス(8604)は今年8月からの新卒採用で学生面接を担当する社員に対してLGBTの基礎知識などを学ぶガイダンスを実施した。新卒採用でLGBTの学生に対する本格的な配慮を打ち出すのは今回が初めて。これに先立って野村では、今年から全管理職対象の研修や新入社員向けのガイダンスでもLGBTについての同社の取り組みなどについて説明するようにしている。人材開発部兼人事部の東由紀エグゼクティブ・ディレクターは「社員のLGBTへの理解が急速に深まってきた」と語る。同社はこうした研修などを今後毎年実施する予定だ。

 LGBTとは同性愛や両性愛、性同一性障害など一般的な男女以外の性のあり方を持つ性的少数者を意味する。電通(4324)によると、約7万人に実施したスクリーニング調査で約7.6%がLGBTであると回答したという。LGBTには子供の頃から心と体の不一致に悩み、生きにくさを感じてきた人も多いとされる。

 野村がLGBTの働きやすい環境を作ろうと取り組みだしたのは、2008年にリーマン・ブラザーズの欧州とアジアの事業部門を継承したことがきっかけだ。もともと欧米の企業ではLGBTを含め人種や性別にとらわれない多様な人材を活用する動きが進んでいた。野村でもリーマンの企業文化を受け継ぎ支援の枠組みを作ってきた。

 リーマンにはLGBTを支援する社内ネットワークがあり、社員がボランティアで参加してLGBTを理解してもらうための啓蒙活動などを実施してきた。野村は現在、東京のほか、香港、ロンドン、ニューヨーク、ムンバイにLGBTの支援ネットワークを持つ。社員ボランティア数は600人に達する。各ネットワークでは昼休みなどに定期的に集まり、社外のLGBTの経営者などを招いた社内講演会などを企画する。

 日本の証券業界でこうしたLGBTを受け入れる職場作りを推進してきたのは外資系が中心だ。米金融大手、ゴールドマン・サックスはその先駆で、日本では05年に支援ネットワークを設立し、各事業部門の部長クラスも活動に参加している。研修でも職場での会話などLGBTに配慮したコミュニケーションのあり方を学ぶ。福利厚生も充実させる。通常の生命保険では被保険者の法的に求められた配偶者や親族しか保険金の受取人になれない場合が多いが、同社の法人契約の保険では同性のパートナーも受取人になれるようにしている。健康保険で被保険者のパートナーが扶養者と認められない場合は、保険適用されないパートナーの医療費を同社が負担するという仕組みも作っている。人事部の住吉緑ダイバーシティ担当は、「日本人でも同性愛者であることをカミングアウトできる環境ができている。LGBTが自分らしく働ける環境を提供することが、彼らの能力を最大限発揮できることにつながる」と取り組みの意義を語る。

 欧州の金融大手のドイツ銀行グループでもLGBTの積極活用のため2年前に『dbプライド』という社内ネットワークを立ち上げた。グループの日本代表である桑原良氏は、「聞いて聞かぬ振りや、見て見ぬふりをするのではなく多様な人材を会社全体で関心を持って受け入れる開かれた職場にしたい」とし、経営トップが積極的に関与する必要性を訴える。英バークレイズや米JPモルガン・チェースなどの日本拠点も同様にLGBT支援を打ち出している。

 各社がLGBTに向けた環境づくりに力を入れるのは今後深刻化する人材難も視野に入れているためだ。少子高齢化で今後採用が難しくなる若く優秀な学生や転職希望の人材に関心を持ってもらうためにも魅力的な職場作りは急務だ。ゴールドマン・サックスではLGBTの学生を対象にした就職説明会を実施し、LGBTでも働きやすい環境であることをアピールする。「性的志向や人種、性別にかかわらず最高の能力を持っている人材を求めたい」と住吉氏は話す。

 こうしたLGBTを支援する証券会社各社が協力し、東京で開かれる同性愛をテーマにした作品を集めた国際映画祭に共同で協賛するなど、業界の横の連携も強まっている。ただ取り組みに着手できない国内資本の証券会社が多いのも事実だ。LGBTの実態について調べている電通ダイバーシティ・ラボの阿佐見綾香研究員は「企業では取引先や顧客にLGBTの人もいる。LGBTについて社内で理解できなければ、企業としての信頼を高めることも難しくなる」と指摘する。

 資生堂(4911)やソニー(6758)など国内企業でLGBTへの対応を進める企業は増えている。証券業界の取り組みも関心を集めそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN) 後藤宏光〕

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