郵政、3社上場で変わる株主視点 上場前最後の決算発表

2015/8/7付
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日本郵政グループは7日、2015年4~6月期の連結決算を発表した。経常利益は前年同期比11%減の2427億円だった。傘下の金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)が苦戦の続く日本郵便を支える構図に変わりはない。郵政グループは今秋予定の株式上場で外部から新しい株主を迎え入れる。新たなステークホルダー(利害関係者)の登場は金融2社に依存する今の収益構造の修正を迫る可能性が高い。異例の親子同時上場後、経営陣は政府と新株主との間で難しいかじ取りを迫られそうだ。

15年4~6月期の経常利益を傘下企業別でみると、ゆうちょ銀行が全体の47%、かんぽ生命保険が44%を占めた。日本郵便の経常利益は前年同期から57%増えたものの、全体の5%にとどまり、日本郵政は金融2社に依存する収益構造が続いている。持ち株会社の日本郵政とかんぽ生命、ゆうちょ銀行の3社は10月にも上場を控えており、今回の4~6月期が上場前最後の決算発表。市倉昇常務執行役は「全体としてはまずまず。日本郵便は今までの赤字が膨らむ状態が解消されつつある」と語った。

今まで実行してきた郵便事業の立て直し策は、株主が政府のみだったからこそ実現した面が大きい。日本郵政の西室泰三社長が「国際物流で最高の相手」と自負した豪物流大手、トール・ホールディングスの買収。買収金額は約6000億円に達し、郵政グループは世界5位の物流企業になるという。5月末に買収を完了したことから、15年7~9月期からは郵便事業の収益に寄与してくる。

日本郵便による大型買収だが、実はその資金の捻出先は、実質的にゆうちょ銀行だ。日本郵便は14年9月に新株発行による6000億円の増資を行った。日本郵政が引受先だが、その資金はゆうちょ銀行が稼いできた利益が活用された。増資額は今回の豪物流トール社の買収額とほぼ同規模で、上場前に何とかして郵便事業の収益性を高めたかった苦労の跡が透けて見える。

だが、今後は好調な金融2社が日本郵便を助けるような施策は難しくなりそうだ。日本郵政の上場方式が、持ち株会社である日本郵政と金融2社の同時上場となるためだ。ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式の5割は日本郵政が保有し続ける方針のため、同社の株主にとっては郵便・金融事業がグループ内に並立する現在の状況と変わりない。だが、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の新しい株主にとっては、利益が伸び悩む他社(日本郵便)をあえて助ける必要性は小さくなる。

日本郵政は郵便事業の立て直しを一貫して進めてきた。05年に小泉政権下で郵政民営化法が成立。07年には日本郵政の「ゆうパック」と日本通運(9062)の個人宅配の「ペリカン便」の統合を発表し、最終的には日本郵政がペリカン便を取り込んだ。楽天(4755)、米イーベイなどと相次いで提携し、成長市場のネット通販を強化している。

もっとも宅配事業は国内外で競争が激化している。国内を見ると、日本通運から取り込んだペリカン便は「1日1億円の赤字を垂れ流していた」(関係者)という赤字事業だった。ゆうパックとペリカン便を合併した相乗効果が出ているとは、直近の決算からは読み取れない。個人宅配はヤマトホールディングス(9064)や佐川急便など大手との競争激化が続いている。「ヤマトHDでさえ利益の増減を繰り返すなど厳しい業界」(バークレイズ証券の姫野良太アナリスト)なのだ。

国際物流でも競争が激化している。日本郵便が豪トールと組んで狙う国際物流は日通が強みを持つ。海外企業を見ても郵便の不振から物流を強化するという構図が鮮明だ。英国ロイヤル・メールの手紙の取扱量は14年度が前期比1%減、ドイツポストの郵便は2%減だった。ただ、両社はそろって増益基調を確保した。電子メールの普及により手紙などの需要が縮小する一方、ネット通販の需要拡大で物流を強化することで生き残りを図っている。

「公共性の高い郵便事業だけで利益を出さなくても良い」という声が一部であるのも事実だ。日本郵政の上場が明らかになった後の6月17日、日本郵政の労働組合は「郵政株式上場に関する提言」を発表し、金融2社の上場の中止などを求めた。記者会見した広岡元穂顧問は「海外では郵便と金融が一体となって運営されている」と指摘、日本郵政グループとしての郵便事業の意義を訴えた。日本全国に2万4000以上の店舗網をもつ郵便事業で顧客を獲得し、金融で稼いでいく経営は一企業としてみれば合理的でもある。

上場を間近に控えた日本郵政。株主構成はユニバーサルサービスを要求する政府1人に、利益追求を求める多数の株主が加わる。両者が対立する場面が出てくるのは必至だ。民業圧迫との議論もある中での上場について、西室社長は「成長より物流企業として生きていくため、グローバルに何ができるかを考えている」と話す。政府が要求するユニバーサルサービスの確保、同業他社からわき起こる民業圧迫との声、需要縮小の郵便事業で抱える約20万人の従業員――。論点の多い日本郵政に、株主という新たな論点が加わる。〔日経QUICKニュース(NQN) 片野哲也、竹田幸平〕

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