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[FT]日中、高速鉄道建設の受注バトルで火花

Financial Times

今年10月、インドネシアに高速鉄道を輸出する50億ドルの商談で日本は中国に敗れた。日本の技術力の偉大なる象徴であり、国民に愛されている「新幹線」が却下されたことを国中が嘆いた。

しかし、今月は日中の立場が逆転し、インドのムンバイとアーメダバードを結ぶ総額150億ドルの高速鉄道建設プロジェクトを日本が獲得。中国の当局者は、これは一般競争入札ではなかったから、(自分たちは)敗れたわけではないと言い張った。

日本と中国はアジアにおける産業面の覇権と政治的影響力を巡って競い合っており、高速鉄道の売り込み合戦はその代理指標と化した。だが、当局者に言わせれば、この状況は一般の認識とは異なる現実を反映している。高速鉄道を本当に欲しがっている国はほとんどない、という事実だ。

「新幹線は日本のアイデンティティーの一部だ。売り込めるようがんばらねばならない」。実に気前の良い資金援助パッケージを日中両国が提示していることについて、日本のある政府高官はこう語る。

日本はインドの新幹線プロジェクトを、120億ドルを年利0.1%で50年間融資するという条件で獲得した。当初の15年間は返済を猶予するうえ、技術支援と研修の気前の良いパッケージも合わせて提供する。また中国は、インドネシア政府に支払い保証を求めない融資を行うことでインドネシアのプロジェクトを獲得している。

中国のコストvs日本の安全

経済発展の非常に重要なシンボルとして高速鉄道を欲しがっている国は多いが、高速鉄道が実際に適している国はそれほど多くない。高速鉄道は、互いに近すぎるわけでも遠すぎるわけでもない複数の大都市を結びつけるものでなければならないうえに、そうした大都市には相応の所得水準も求められる。台湾は新幹線を購入したが、この路線は大赤字を計上している。

北京交通大学の趙堅教授は「高速鉄道を維持できる外国市場はあまり多くない」と指摘する。例えば、タイではバンコクと結ぶに値する第2の都市はどこなのかが問題になる。また、ベトナムではハノイとホーチミンがともに大都市の基準を満たすものの、互いに1160キロも離れているため航空機に太刀打ちできない。

中国と日本はともに、資金の融資以外の分野で競争しようと最大限の努力をしている。「高速鉄道の建設なら、日本の方が経験豊富だ」。上海の同済大学に籍を置く鉄道専門家、孫章教授はそう認める。「しかし、我々の高速鉄道の方が安い。大量生産しているし、労働コストも安いからだ」

これに対し日本は安全面の実績を強調している。中国では2011年に浙江省温州市の事故で40人が死亡したが、日本の新幹線では乗客が負傷する事故がまだ一度も起きていない。また、長期的には新幹線の方が割安だと主張している。

舞台裏の競争はこれほど上品には行われていない。例えば日本側は、中国はインドネシアのジャカルタ・バンドン間の路線について適切な事業計画をつくっておらず、できもしない約束をしていると述べている。好んで引き合いに出すのがフィリピンのマニラで進められた「ノースレール」プロジェクトだ。フィリピンはこの鉄道建設資金を中国輸出入銀行から借り、その返済も続けているものの、肝心の工事が進んでいないという案件だ。

ただ日本側の専門家の間でも、新幹線を統合されたシステムとして丸ごと購入するしかないオール・オア・ナッシングのアプローチはハードルが高いという声は多い。

「新幹線の仕様は非常に高度だ」。鉄道コンサルタントで外国での鉄道プロジェクトについての著作もある佐藤芳彦氏はこう指摘する。「専門家は新幹線をそのまま外国に持っていきたいと思っている。これはなかなか難しいことだ」

地下鉄にチャンス

三井物産の安永竜夫社長は、日本の技術と外国の技術とを組み合わせれば日本のインフラ輸出が成功する回数はもっと増えるとみている。

「インフラ輸出について語るときには、日本製であることに焦点が集まることが多い。だが、日本にも長所と短所がある」と安永氏。「すべてが日本製のパッケージで勝てるとは思っていない。競争力のある最良のパッケージが何であるかを常に考えなければいけない」

途上国は都市部を走る鉄道を渇望している。そして新幹線に直接携わる企業を除けば、日本の鉄道業界の中には地下鉄を売り込んだ方がいいという声が多い。「個人的には、都市鉄道の方がビジネスチャンスが多いのではないかと思う」と佐藤氏は述べている。

住友商事と日本車両製造は今年、ジャカルタの地下鉄向けに車両を製造する1億700万ドルの契約を獲得した。成功しているデリーの地下鉄は日本の資金を使って建設されたものだし、高速鉄道の大騒ぎでほとんど見過ごされてしまったものの、安倍晋三首相のインド訪問では、チェンナイとアーメダバードにおける鉄道事業への借款供与でも合意した。

安永氏によれば、三井物産はリオデジャネイロとサンパウロを結ぶ高速鉄道網の計画受注を目指してきた。だが、コストの高い新幹線計画が一般市民の反対に遭った後、今ではサンパウロの地下鉄新路線の建設に取り組んでいるという。

By Robin Harding in Tokyo and Tom Mitchell in Beijing

(2015年12月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(翻訳協力 JBpress)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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