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「課題に取り組む政府の覚悟感じた」夕張、モデル自治体に

鈴木直道夕張市長インタビュー

 2007年に財政破綻した北海道夕張市は5月29日、政府が発表した「地域活性化モデルケース」の1団体に選ばれた。「地域活性化モデルケース」とは、アベノミクスの効果を日本のすみずみまで波及させるため、政府が重点的に支援をする団体を公募したものだ。選ばれた自治体は、政府とともに5年間、良い点・悪い点を検証し、良い事例を多くの地域に広める。高齢化率が47%を超えるなか、財政破綻後、353億円もの借金を返し続ける夕張は今後どのように将来像を描いて取り組むのか。鈴木直道夕張市長に尋ねた。

地域活性化モデルケースの選定

「財政再建と地域再生は必ず果たす」。夕張市長の鈴木直道氏がビデオメッセージ

「財政再建と地域再生は必ず果たす」。夕張市長の鈴木直道氏がビデオメッセージ

アベノミクスの効果は大都市が中心で、地方にはなかなか届いていません。効果を全国に広げるため、政府は3月25日、地域活性化のモデルになる団体を選び、税制面などで支援することを発表しました。

具体的なテーマは2つです。一つは地域の直面する超高齢化や、人口減少のなかで都市を持続させられるかということ。もう一つは地域の産業を成長させ、雇用を生むことです(※前者の対象は市町村、後者の対象は民間や地方公共団体など)。この2つについて、総合的に改革するモデル自治体を選ぶ、というものでした。

前者は行政機能や商業施設などを街の中心部に集める「コンパクトシティー」の形成や、公共交通の維持や拡充、在宅医療システムの整備などに取り組んでいる自治体が対象でした。破綻後、夕張が取り組んできたものと重なります。

この事業は内閣官房が事務局となり、各省庁を横串にした組織のもとで行われます。選ばれた団体は、このしくみのもとに先進事例を作っていきます。私は3月25日に直接問い合わせて応募しました。書類審査やプレゼンテーションまで3次に及ぶ審査がありました。最終的に135件が応募し、夕張を含む33件が選ばれました。

国が覚悟したプラットフォーム

私は、この「モデルケース」事業を進めることに、国は相当な覚悟が必要だったと思います。今までのようにある一定の条件をクリアした自治体に対して(お金を)配る、ということであればある意味国の直接的な責任は問われません。お金を渡した自治体が失敗すれば、自治体が勝手にやったんでしょう、私たちは関係ありませんと言えますから。今回は国が募り、限られた自治体を重点的に支援する、と表明しているのです。

今、政府はさかんに地域活性化を「第2のアベノミクスだ」といっています。秋の内閣改造では、新たに地方創生の担当相もおくことも発表され、人口減や少子化など地方の問題に取り組む新組織「まち・ひと・しごと創生本部」は首相みずから本部長になります。国のトップが「選択と集中をする」ということですから、設定した5年間で成果が実感できなければ、地域はもちろん指定した政府も痛みを伴います。選んだ責任があるからです。その意味で、私はこの事業は国としても結構思い切ったな、と思います。すばらしいことだと思います。

旧夕張小学校内に飾られた短冊には、夕張再生を願う声が書かれていた

省庁で横串、ということも評価しています。今回は「地域活性化」というテーマにそって、各省庁が連携して作られた仕組みです。通常、財務省は省庁ごとに担当の主計官がいて、予算を管理しています。同じ「地域活性化」というテーマに対して、各省からそれぞれ要望が出れば無駄も生まれるかもしれません。今回はそこが違うのです。

夕張では、7月18日に内閣官房や経産省、国土交通省の担当者が来て1回目のミーティングが行われました。横串のワーキンググループ、といってもやはり各省庁の担当者は所属省庁の見解があるので発想の転換は難しいところもあります。ここからこの取り組みを活用するなかで、夕張も国とともに新しい行政サービスのありかたやルールを作っていきたいと思っています。

夕張の今

夕張市が今回選ばれた「超高齢化人口減少における持続可能な都市・地域の形成」というテーマは、これまで進めてきた「住宅再編事業」、つまりコンパクトシティーの構築と、炭層メタンガス(=コールベッドメタン。CBM)の開発がメーンです。

CBMはもともと、石炭を掘った際に出てくるガスです。かつてはガスが噴き出すと、炭鉱で働く多くの人が亡くなる事故になりました。ところがこのガスが、今回の計画で大きな柱になるCBMです。オーストラリアを中心にいくつかの地域ではエネルギーとして使われていて、東京電力はすでにCBMを電力源として買っています。夕張には全世帯(2014年7月時点で5546世帯)が使用する1500年分のエネルギーにあたる約77億立方メートルが埋まっているのです。CBMを使えば、夕張で使うエネルギーを夕張で生み出すことができます。このエネルギーを今年度中に試掘したいと考えています。

財政再生計画に基づく財政再建は順調です。破綻直後に353億円あった債務は、今年度中に合計で約70億円を返す見込みです。モデル自治体に採択されたことも追い風にして、地域再生を加速させることで当初からの目標だった、17年に及ぶ再生計画の期間を少しでも短くし、市民の皆さんの負担を軽くしたいと思っています。

民間の賃貸住宅も建設され始め、町の景色が変わってきているという実感を市民の皆さんに持ってもらいたいです。モデル自治体に採択をされたことで、将来の都市拠点に位置づけている清水沢地区にも商業施設が新たに誘致される動きも出ています。日本一の人口減少・少子高齢の町でどんなビジネスモデルを作るべきか、将来のビジネス戦略を考えるにあたって必要だと考えている企業も多いようです。

夕張の旧炭鉱住宅(夕張市清水沢地区)
夕張で進む民間住宅の建設(夕張市清水沢地区)

今年4月から夕張メロンの提供を始めた「ふるさと納税」も、今年はすでに約4200万円、去年の同時期と比べ件数ベースで約47倍まで集まりました。夕張は市税収入が約8億円しかない自治体ですから、ふるさと納税の約4200万は非常に大きな財源です。夕張の制度を知った上で自分のふるさとはどうなっているのか、考えてくださった方も多くいるようです。今後、政府はふるさと納税自体の税控除額を倍に増やすという検討もしているようなので、より身近になると思います。

職員の体制は大きな課題

もちろんいいことばかりではありません。一番大きな問題は、やはり行政を担う「人」の問題です。夕張に限らず、優秀な人材が厳しい労働環境のもとに集まりづらい、という現実があります。私が「夕張は日本の課題モデル」とか大きなことを言うと、職員の仕事はどんどん増えていくんです。まあ、私が増やしているのですが……。

民間の力を借りたい、という思いはここにも理由があります。大方針は私が決めるけれど、詳細な制度設計は職員が汗を流して作っています。人数の面でも給与の面でも夕張は日本一脆弱な体制になっていて、一番大きな課題だと思っています。

8日に行った国、道との三者協議の交渉でも採用枠を増やすなど人材の確保について合意しました。しかし、いきなり入ってきた人がキャリア10年くらいの実力を発揮するのはなかなか難しいです。ここ5年ほどで退職期を迎える人も多く、職員の構成がアンバランスになっています。50代半ばの管理職の大多数が退職する時期に近づいています。長期的に見ると人材確保が非常に厳しい。いいビジョンがあっても実現するのは職員であり市民なんです。しっかりと外の血も入れながら、適正な人員の配置にしていかないと実現はなかなか難しいです。

人口1万人に満たない夕張市だからこそ、自分の地元の施策を真剣に考え、動いていると思う(7月、夕張市役所)

政府のモデル自治体として企業など外の力が入り、改革のスピードが上がっていくことについていけない地元の人たちもいます。いいか悪いか、ではなく、彼らを無視してはいけないと思っています。地元の人たちにとって聞こえのいい話ばかりではないけれど、「鈴木がいうから仕方ないな」と思ってもらえるまで話をするしかないと思っています。実感として変化についていけない多くの地元の人たち、彼らが変わらないと物事は大きく変わらないからです。一言二言私が何かをいっただけで一気に価値観が変わるなんてことはありえません。厳しい実情をお話ししながら、一緒に歩んでいこう、という気持ちまで持っていくことが必要だと思います。

実際、多くの夕張市民は市の取り組みを知っています。「CBM」や、「DMV」(線路と道路の両方を走れるデュアル・モード・ビークル)といった単語も、「CBM、炭層メタンガスでしょ」と。もちろん、アルファベットがあってないとか単語が不正確だとかはありますけれど。人口1万人に満たない夕張市だからこそ、自分の地元の施策を真剣に考え、動いていると思います。

(聞き手は電子報道部 松本千恵)

 

鈴木直道

(すずき・なおみち) 1981年埼玉県生まれ。1999年東京都入庁。2004年、都庁に勤めながら4年で法政大学法学部法律学科を卒業。2008年夕張市へ派遣。2010年11月、夕張市市長選の出馬を決意し東京都庁を退職。2011年4月、夕張市長に就任。

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