2018年10月19日(金)

エルドアン氏、強権体制一段と トルコ首相辞任

2016/5/6 1:05
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【イスタンブール=佐野彰洋】トルコのエルドアン大統領が一段と強権的な統治手法に傾斜する懸念が浮上している。国際協調を重視する一方でエルドアン氏の権限強化につながる新憲法制定に慎重だったダウトオール首相を5日、辞任表明に追い込んだ。後任には側近の起用が取り沙汰されるが、歯止めを失った形のエルドアン氏が自らに批判的なメディアへの締め付けなどを一層強化すれば、欧米との関係がぎくしゃくするのは避けられない。トルコが重要な役割を果たす難民問題や過激派組織「イスラム国」(IS)対策に影響が及ぶ可能性もある。

記者会見を終えたトルコのダウトオール首相(5日、アンカラ)=ロイター

記者会見を終えたトルコのダウトオール首相(5日、アンカラ)=ロイター

「有権者とは(議員任期の)4年間首相を務める約束をしていたのだが」。ダウトオール氏は5日の記者会見で任期途中で首相職を退く悔しさをにじませた。同氏が党首を務めるイスラム系与党・公正発展党(AKP)は22日に新党首を選ぶ臨時党大会を開くが、ダウトオール氏は不出馬を明言した。AKPの党規で党首と首相は同一人物が務める。

後任にはエルドアン氏の長年の側近であるユルドゥルム運輸相や娘婿のアルバイラク・エネルギー天然資源相らの名前が取り沙汰されている。いずれもエルドアン氏の意向に忠実に従うとみられ、大手紙で政治コラムを執筆するムラット・イェトキン氏は「新首相は閣内や国会との調整役にとどまるだろう。事実上の大統領制が到来した」と指摘する。

本来は儀礼的な立場のエルドアン氏は新憲法の制定によって現行の議院内閣制から自身に行政権を含めた権限を集中する新たな大統領制への移行準備を加速するよう求めてきた。ただ、自身の権限縮小を警戒するダウトオール氏は4月20日「しばらく煎じる必要がある」などと述べ、賛否の割れる世論の理解を得るのに時間をかける考えを示していた。

「誰のおかげで現在の地位に就いたか忘れるべきではない」。激怒したエルドアン氏は同月末、息のかかったAKP執行部に命じ、ダウトオール氏から地方幹部の任命権限を剥奪した。大統領寄りの報道関係者からは辞任要求の声が上がるようになった。事態の打開に向け、両者は5月4日、約1時間半にわたって会談したが、溝は埋まらなかった。

ダウトオール氏を首相に指名したのはエルドアン氏だが、両者はこれまでも閣僚や中央銀行総裁の人事を巡って意見を異にするなど水面下で緊張の芽は膨らんでいた。今回の辞任劇には、難民の流入抑制を巡る欧州連合(EU)との合意をまとめる上げるなど、独自色を発揮し始めた首相がエルドアン氏の「脅威」に育ち、排除に動いたとの見方もある。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国で人口7800万人のトルコはサウジアラビア、イラン、エジプトと並ぶ中東の四大大国の一角を占める。対IS掃討では南部のインジルリク空軍基地を米国主導の有志連合に提供。250万人以上のシリア難民を受け入れ、欧州に向かう難民の密航抑制で協力するなど地域安定の鍵を握る存在でもある。

しかし、少数民族クルド人勢力との戦闘には出口が見えず、同勢力やISによる大規模テロの頻発にも直面する。一方で、テロ対策などを理由に反政府デモの弾圧やメディアの接収などを続けるエルドアン氏を欧米の指導者は警戒する。

ダウトオール氏の辞任でエルドアン氏への事実上の権限集中は加速する。英調査会社のキャピタル・エコノミクス「より気まぐれで独断的な政策決定」の危険性を指摘する。メディア弾圧など強権的な統治への傾斜が進めば「表現の自由」に敏感な欧米諸国との関係悪化は避けられない。指導者同士のささいな言動をきっかけに、難民の流入抑制や対IS包囲網での協力態勢に綻びが生じる恐れもある。

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