エンディング書いた? 家族と一緒に 何度も書き直し
もしものときに備えて、家族らに伝えたいことを書いておくエンディングノート。昨今の「終活」ブームもあって書店などにも多数並ぶ。ただし、実際に書いた人は少ないのが現状だ。無理なく書くにはどうしたらいいのか。遺言と違って法的拘束力はないが、どんな項目を記入しておけば、万が一の際に役立つのか。

「2~3回、目を通したが、死んだあとのことを書くと思うと嫌になって」。都内に住む秋本則子さん(86、仮名)は手つかずのエンディングノートを見て話す。昨年末、胆のうの摘出手術を受ける前に娘が買ってきた。ところが手術前も、手術が成功して帰宅した今も書けないでいる。
■いつも先延ばし
毎日日記をつける筆まめの秋本さん。だが、このノートに関しては「自分に該当するページが少ない」と不満そう。有価証券や保険、ローンだけでなく、携帯電話やパソコン、ペットについても書くページがあるが、そこには書くことがない。親族表や連絡先は「書こうと思えばいつでも書けるが、まだいいかな」。結局先延ばしになっている。

「それでは実際にノートを書いてみましょう」。10月初旬、横浜市磯子区で開かれた「エンディングノート書き方講座」には約90人が出席した。講師役の区職員らのガイドでノートを開く。「記入していると鉛筆が止まることがありますね。例えば本籍地。とても大切なんですよ」「友人・知人の連絡先ではどの人の顔が浮かびますか。名前だけでも書いておきましょう」
自治体などでは独自にノートを作り、無料で配るところも出ている。磯子区も2012年3月に作成した。全15ページ、資料や解説を減らし、行間を広げるなど工夫した。出席者からは「そんなに難しくなさそう」(67歳女性)との声も。書き方講座はこれまでに100回以上開催し、延べ3千人以上が受講した。
エンディングノートはここ10年ほどで普及した。価格や厚さは様々。中には100ページを超えるものもある。内容はおおむね、(1)プロフィル(自分史や親族表、交友関係)、(2)財産(預貯金や不動産といった資産、借入金などの負債)、(3)エンディング(終末期医療や介護、葬儀、墓などについて)――の3つの部分で構成される。
死後に家族に迷惑をかけたくないという人や、葬儀や墓などに自分らしさを求める人が増え、普及を後押しした。そのためには後を託す家族らに自分の思いを伝える必要がある。日ごろから死に際しての手続きや希望を話していれば、書かなくてよいだろう。だが、親子離れて暮らしたり、会話が疎かったりというケースも多く、その場合、思いを伝えるツールとなる。

ただし、実際に書いた人は少ないようだ。経済産業省が12年にまとめた「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書」ではエンディングノートについて「よく知っている」「なんとなく知っている」「名前は聞いたことがある」を合わせた、存在を認知している人は全体の約6割。このうち作成済みの人は2%だった。
「すぐに必要なわけではない」「書くとそれが固定してしまうのでは」「ページ数が多すぎる」。書かない、または書けない理由は人それぞれだ。自分の死に関することなので、1人で書いていると切なくなり、途中でやめる人もいる。「重要なのはサポートする人がいるかどうか」と弁護士の武内優宏氏。「できれば家族と作ってほしい。絆も深まるし思いも伝わる」。書き方講座の講師やカウンセラー、友人とでもいいという。
■法的拘束力なし
「今の考えでとりあえず書き、考えが変わったら何度でも書き直せばよい」と話すのは税理士の内田麻由子氏。気軽に直せるのがエンディングノートの特徴だ。そのうえで「書いたことは家族に伝えたい」。だれにも話さず、たんすの奥などにしまい込んでは何も伝わらない。
全部のページを埋める必要はない。ただ、葬儀や墓などに従来と異なるスタイルを望むなら、書き残す必要がある。直葬や散骨などが代表例だ。終末期医療についても希望を書けば、家族が判断に迷ったときのよりどころになる。
一方で相続などの観点からは、プロフィルや資産のページが重要だ。親族表や親戚・知人の名簿を記入しておくと相続人の確定や、連絡時に便利だ。保有資産を書いておけば、相続財産の算定に役立つ。実際、親がどんな保険に入っているかなど、知らない家族も多いだろう。
エンディングノートと遺言は、全くの別物だ。ノートには法的な拘束力はない。資産の分け方などを書いても望み通りに進むとは限らず、逆にトラブルの原因となることもある。「遺産分割に意思を反映させたいなら、併せて遺言をきちんと残す必要がある」と武内弁護士は指摘する。(編集委員 土井誠司)