青森・田舎館村の田んぼアート、人気沸騰の裏に悩み - 日本経済新聞
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青森・田舎館村の田んぼアート、人気沸騰の裏に悩み

企業が絵柄、村民「蚊帳の外」

水田をキャンバスに見立てて異なる色の稲で絵を描く青森県田舎館村の「田んぼアート」が見ごろを迎えた。表現は年ごとに精緻さを増し、人気はうなぎ登り。今季は村の人口の50倍、40万人の来場が目標だ。だが、鈴木孝雄村長は喜色満面かといえば、そうでもない。大きな宣伝効果をもくろむ企業が絵柄を決めるようになり、村民の達成感が薄れてきたのだ。

17日の日曜日、村役場屋上の展望デッキが大きな歓声に包まれた。女性を中心とする観覧客100人の視線の先にいるのはNHK大河ドラマ「真田丸」で石田三成を演じる俳優の山本耕史さん。見ごろ宣言式で鈴木村長らとテープカットした。

1.5ヘクタールの第1会場のテーマは「真田丸より 石田三成と真田昌幸」。山本さんは「規模は想像以上で、僕も(昌幸役の)草刈正雄さんもそっくり」と驚いていた。

「道の駅いなかだて」の隣の第2会場(1ヘクタール)のテーマは29日公開の映画「シン・ゴジラ」で、こちらは13日に見ごろ宣言した。2会場とも8月中旬までが見ごろだ。

田舎館村は田んぼアートの先駆けで今年で24年目になる。絵柄は年々緻密になり、今は赤、黄、白、紫など7色の稲で表現する。第1会場は12品種、第2会場は9品種の稲を植えて、多彩な色を出した。

展望台から遠い上部ほど小さく見えるので、遠近法を使って上部を大きく下部を小さく原画を修正して実際に苗を植える図面を作る。その担当者である同村在住の特別支援学校教師、山本篤さんは(58)は「稲で表現できる限界まできている」と話す。

山本さんの設計図を実際の田んぼに落とし込むのが同村の農家、工藤浩司さん(55)だ。測量会社の勤務経験を生かし、基準点からの距離と角度で、2会場それぞれの田植えの目安となる約8500のポイントを決める。その際、稲の高さの違いで展望台から見た時に影になって見えない部分ができないよう、山本さんの設計図を微修正する場合もあるという。

こうした24年間のノウハウの蓄積の上に、現在の田舎館村の田んぼアートがある。鈴木村長は「がっかりして帰る人は一人もいない」と断言する。

2015年度の観覧者数は5年連続増の34万人で、展望料収入は6200万円だった。16年度は展望料金を100円値上げして300円(大人)としており、展望料収入が大台の1億円を突破するのはほぼ確実だ。

ところが、鈴木村長の表情はいまひとつさえない。村民の、自分たちがやったという感覚が薄れてきたというのだ。「今年の田んぼアートは大企業のものになってしまった」と漏らす。

従来は村や商工会などでつくる田舎館村むらおこし推進協議会のメンバーが候補を1人何枚も持ち寄り、全員で協議してテーマを決めていた。

だが田んぼアートの人気が高まるにつれて、宣伝に使いたいという企業・団体が増えてきた。今年は2つの会場とも、NHK、東宝という大企業・団体がテーマを提案し、絵柄も指定した。しかも、絵柄は見ごろになるまで非公開とされたため、地元によるタイアップ商品の準備が例年より大幅に遅れる問題も発生したという。

鈴木村長は「従来は自分たちで1から10までやっていたが、今年は途中の5から加わる感じだった」と振り返り、明言した。「題材はいろいろあり、それを選ぶのが楽しい。来年は少なくとも1つの会場は村でやります」

(青森支局長 森晋也)

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