2018年12月19日(水)

第3のトヨタ王国、東北に芽吹く

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2017/6/29 14:36
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完成車などの工場を東北に置くトヨタ自動車系3社が統合して発足したトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)が7月1日、5周年を迎える。トヨタグループの小型車生産の中核を担い、東北を中部、九州に次ぐ第3の生産拠点へと育て上げてきた。設立当初は自動車産業の基盤が乏しかった東北だが、地場サプライヤーも相次ぎ生まれ、産業の裾野も広がっている。

■地場サプライヤー急増

岩手工場(岩手県金ケ崎町)では「順序生産・順序納入」で小型車を組み立てる

岩手工場(岩手県金ケ崎町)では「順序生産・順序納入」で小型車を組み立てる

「自動車部品を4年弱やって、100点中70点くらい。トヨタと付き合うには覚悟が必要」。プレス加工を手掛ける登米精巧(宮城県登米市)の後藤康治社長はこう語る。

もともとOA機器向けなどに部品のプレス加工を行っていたが、トヨタ自動車東日本の設立をきっかけに自動車業界への進出を決意。プレス加工に自信はあったが、「参入してみて自動車産業の要求レベルの高さを知った」(後藤社長)。トヨタ自動車東日本などから技術指導を受け2014年に納入開始。今では自動車関連が全体の売り上げの2割を占める。

トヨタ自動車東日本はトヨタの車両生産を手掛ける子会社である関東自動車工業、セントラル自動車、トヨタ自動車東北が統合して12年に発足した。本社のある宮城大衡工場と岩手工場(同県金ケ崎町)が主力拠点だ。

「小型車づくりの専門集団」を標榜し、設立当初から生産していた「アクア」に加え、「シエンタ」「C―HR」など人気車種の生産もここ5年間で始まった。東北2工場を含め生産台数は16年度に約50万台前後となった。

東北に完成車工場を構えるのは、トヨタ自動車東日本だけ。これまで自動車産業の基盤がないエリアだけに、デンソーアイシン精機など1次取引先(ティア1)に進出してもらい、2次取引先を発掘するなどの活動を進めてきた。取引のある地場サプライヤーの拠点は5年で4割増の140で2000人の雇用創出につながったとされる。

もっとも、トヨタ自動車の歴史は80年。「お膝元」でもある中部地方の方が自動車部品メーカーの層が圧倒的に厚いのが現状だ。トヨタ自動車東日本の白根武史社長は「簡単には勝てないが、それでも勝負していかないといけない」と力を込める。「東北ならでは」の強さを発揮するため工場改革の動きも始まった。

■東北だからこそできる

6月19日にマイナーチェンジして投入したハイブリッド車「アクア」。岩手工場のラインでは、発売を前にこの生産のまっただなか。作業員が「リアスポイラー」という部品を次々と、車に組み付ける。

どの車種のどの色がどの順番でラインに流れるか。「リアスポイラー」ではこの情報が4日前に確定している。サプライヤーはこの順番に合わせ生産するため、ムダな在庫を持たなくてすむ。さらに岩手工場でも部品をラインに流す順番に直す「順建て」という工程の手間が大幅に省ける。

「ほかに完成車の工場がない、東北だからこそできる」。白根社長がこう力を込めるのは、「順序生産・順序納入」に磨きをかける取り組みだ。岩手工場ではすでに一部で実施していたが、今年から宮城大衡工場でも開始。対応するサプライヤーも拡大させていく方針だ。

これまでは検査工程の結果、直前に順番が入れ替わることもあり、順番が最終決定するのは組み立て工程開始の2時間前だった。トヨタ自動車東日本は塗装工程でのカイゼンなど、地道な取り組みを重ね、順番が入れ替わらないように生産できる体制を整備。さらに、サプライヤーにも協力を求め、実施にこぎ着けた。東北ではトヨタだけに自動車部品を納めるメーカーも多く、協力を得やすい。これが「東北ならでは」のゆえんだ。

昨年12月に岩手工場で開かれた新型SUV「C-HR」のラインオフ式

昨年12月に岩手工場で開かれた新型SUV「C-HR」のラインオフ式

「リアスポイラー」を納入している東北イノアック(宮城県美里町)はこの方式に対応している1社だ。生産計画を立てやすくなり、在庫スペースを4割削減できた。空いた場所に新しい大型の射出成型機を増設できたため、生産能力の向上にもつながった。「順序生産・順序納入」に対応しているサプライヤーは「CH―R」では約10社にとどまる。これから、さらに増やしていく方向だ。

5周年を迎えたトヨタ自動車東日本だが、取り巻く環境は厳しい。トヨタ自動車は2016年に製品軸を中心にしたカンパニー制を導入。小型車ではトヨタ自動車東日本が生産を担う「コンパクトカーカンパニー」と、ダイハツ工業が主導する「新興国小型車カンパニー」が並ぶ体制になった。

コスト競争力ではダイハツに優位性があるとされ、需要が拡大している新興国での小型車開発などについては、ダイハツが主導権を握るかっこうだ。手をこまぬいていては仕事が奪われる。5月の決算会見ではトヨタ自動車の豊田章男社長が「賢い車づくりに改善の余地」とコスト競争力の引き上げの必要性を指摘。「小型車が賢い車づくりの原点」と発破をかけた。

「今は逆風だが、これをチャンスに変えるしかない」。白根社長はこう語る。「東北発」のものづくりを進化させ、競争力を高められるか。新たなチャレンジがカギを握る。

(名古屋支社 押切智義、仙台支局 酒井愛美)

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