「物流」は、世の中をよくできるか。 |
物流という言葉を聞いて、読者の皆さんはどのようなことを思い浮かべるでしょうか。私たちはこう考えています。物流には生活者のライフスタイルやビジネスを変える力があり、逆にライフスタイルの変化に物流が追いついていく必要がある。真逆のことのようですが、「豊かな社会の実現に貢献したい」という熱い気持ちが根底にあります。
■生活を変え、生活の変化に追いつく熱意
例えば、重いスキー板を担いで苦労している姿を見た宅急便のドライバーの気づきから「スキー宅急便」、「お願いした時間に荷物を持ってきてほしい」というお客様の声から「時間帯お届けサービス」が生まれました。「クール宅急便」は短時間の産地直送を実現し、農業や水産業の振興の一助となり、食文化の発展にも貢献できました。私たちは届けるモノがあれば、どこでも伺います。一部の自治体では「見守り、買い物サポート」が高齢者宅などの安否確認に活用されています。
世の中がどんどん変化するなか、物流に求められる機能も高度化する必要があります。そこでIT(情報技術)、LT(ロジスティクス・テクノロジー)、FT(ファイナンシャル・テクノロジー)を融合し、さらに利便性の高いサービスへと進化させていきます。
労働集約的な産業である物流業は、現場で働く人たちの「お客様の役に立ちたい」という感性を磨き続けないとイノベーションは生まれません。インターネット通販の急速な普及は現場の高い意識が支えています。「人の暮らしを幸せにする物流とは何か」「ライフスタイルを豊かにする物流とは何か」を絶えず考えて仕事に取り組んでいます。
「宅急便」が生まれて40年になります。少子高齢化、地域創生といった社会的課題への対応や、労働力不足、再配達といった課題も存在します。一方で、まだ生活者が気がついていない潜在的なニーズをどのように掘り起こしていくべきなのか、宿題はたくさんあります。
そこで読者の皆さんにお願いです。
「物流」に期待する新しいサービスのアイデアを考えていただけないでしょうか。私たちが見落としているニーズはまだまだあるはずです。「物流」と「何」が融合すると、新たな価値を生み出すのでしょうか。社会的課題、利便性、環境問題などの宿題をいっしょに考えていきたいと思います。
山内雅喜・ヤマトホールディングス社長の課題に対するアイデアを募集します。投稿はこちらから |
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■編集委員から 今から40年前の1976年、ヤマト運輸は宅急便のサービスを開始しました。初日の取扱個数はわずか11個。最初の1カ月でも9000個に届かなかったのです。それがどうでしょう、今では年間16億個にもなり成長が続いています。スキー場やゴルフ場に用具などを届けるサービスは利用者に"手ぶら"で移動する快適さをもたらしました。これも立派なライフスタイルの変化です。猛烈な勢いで伸びている訪日旅行客。たくさんのお土産を出国する空港や港で受け取ったり、そのまま海外へ送ったりできれば旅はさらに楽しくなります。
日本社会の中で宅急便は「20世紀の発明」の一つといわれることがあります。そして21世紀になっても宅急便は進化し、多様化、細分化する個人や企業のニーズに応えようと踏ん張っています。「サービスが先、利益は後」という言葉が同社にはあります。顧客の喜ぶ顔を思い描いて新たなニーズを掘り起こしているのです。
(編集委員 田中陽)