東芝総会ドキュメント 株主「もう諦めた」

2017/6/28 9:10 (2017/6/28 13:45更新)
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東芝は28日、定時株主総会を幕張メッセ(千葉市)で開き、取締役の選任などを決議した。もっとも2017年3月期の決算は監査法人との調整が長引き、総会で報告ができない異常事態だ。同じく株主への報告を予定していた、半導体メモリー事業の売却契約も間に合わなかった。再建に向けた明確な道筋をいまだ示せない経営陣に対し、株主から厳しい声も飛んだ。総会現場の状況を追った。

東芝の株主総会に向かう株主ら(28日午前、千葉市美浜区)

東芝の株主総会に向かう株主ら(28日午前、千葉市美浜区)

■午前8時~「社会に必要とされなくなっている」

幕張メッセの肌寒い朝が始まった。空はどんよりした雲に覆われ、小雨が降り続ける。神奈川県厚木市に住み、10年ほど東芝株を持つ40歳の男性は「東芝が社会に必要とされなくなっている。まずは透明性をあげてほしい」と話す。

■午前8時20分~「ずさんな経営繰り返された」

会場に集まった株主は30人を超え、屋根のある小さなスペースに密集している。「早く会場に入れてほしい」との声も漏れる。

横浜市から来た無職の佐藤元則さん(68)は「会社が持つのかどうかが最も気になる」と曇り顔だ。今も株を持ち続ける理由について「技術力はいいものを持っている」という。ただ「旧態依然とした経営陣や国の介入のせいでずさんな経営が繰り返されてきた」と指摘。難航している半導体メモリー事業の売却交渉についても「米ウエスタンデジタル(WD)に訴訟を起こされるなど、パートナーをコントロールできないのに売ると言ってもめているなんてみっともない」と批判した。

■午前8時30分

開場する前に集まった株主は約50人に達した。テレビカメラも集まり始めた。

「おはようございます。お待たせしました」。黒いスーツのスタッフが一斉に声をかけて開場。株主らは手荷物検査を経て会場に入っていった。株主にはうちわ、お茶、注意事項が書かれた紙が配られた。会場内には約4300あまりのパイプ椅子がずらりと並んでいる

■午前8時30分すぎ

会場の裏手では総会に出席する綱川智社長ら幹部を乗せた車が慌ただしく会場入りしていった。

■午前8時40分ごろ~「創業者の精神、理解していない」

千葉県習志野市の男性(62)は東芝の迷走について、「創業者(田中久重)の精神を理解している経営者が少ない」と話す。半導体メモリー事業の売却については、「(優先交渉先に選んだ陣営に)韓国企業が入っていることが納得できない。技術流出の点でリスクが高い」と懸念を示した。

都内に住む男性(66)は半導体メモリー事業の売却交渉が難航していることについて、「(協業先の)WDとの問題が片付かない限り、前には進まないのでは」としたうえで、「打開に向けて社長をはじめ経営陣の手腕が問われてくる」と語った。

■午前9時すぎ~「経営陣は逃げている」

都内の男性(55)は「上場廃止にして半導体メモリー事業を残す選択肢もあるのでは」と話した。

都内に住む30代の女性会社員は「不適切会計以降に株価は上がると思って購入したが、全然ダメだった。経営陣は逃げている。最終的には国が東芝を買うのでは」と語った。

■午前9時30分

東芝が半導体メモリー事業の売却を巡る日米韓連合との交渉について、「現在も交渉中」と発表。「コンソーシアム内の複数の当事者による調整等に時間がかかっており、現時点では合意に達していない」と説明し、株主総会で報告できないことが確定的となった。

■午前9時40分~「何の会社になろうとしているのか」

有給をとって静岡県から参加した男性(47)は「半導体メモリー事業を売却する意味が分からない。半導体がなければ東芝の強みはない。何の会社になろうとしているのか。今日、質問したい」と話した。

会場に用意された席は半分近くが埋まった。

■午前9時57分~硬い表情で役員が入場

役員たちが硬い表情で続々と入場し、一礼して着席していく。株主は厳しい目線で迎える。

原子力事業を統括していた志賀重範・前会長も姿を現し、後方の座席に着席した。志賀氏は米ウエスチングハウス(WH)が米連邦破産法の適応を申請した直後の3月末に開かれた臨時総会は欠席していた。

■午前10時~「改めて心からおわび」

定刻通り総会が始まった。まず綱川社長が自己紹介したのちに「審議に入る前におわびしたい」と切り出した。「本来は年度決算を報告する場だが、手続きに時間を要しているため報告できない」と釈明。上場市場が東証2部に降格になったことなどに触れ、「改めて心からおわびしたい」と語り、役員一同が起立して頭を下げた。会場からのヤジはなかった。

続いて平田善政最高財務責任者(CFO)が「8月10日までの有価証券報告書の提出を目指したい」と語った。

■午前10時10分~「メモリー売却で債務超過解消」

綱川社長が17年3月期の連結業績の見通しについて説明。これから米連邦破産法11条の適用を申請したWHの再建状況や、半導体メモリー事業の売却交渉について説明するという。

綱川社長は決算見通し説明で、「メモリー事業への外部資本導入により債務超過を解消予定」と繰り返し強調。WHの再生手続き申し立て以降の経過説明では、米原発建設プロジェクトについて「電力会社との親会社保証の履行に関して協議を継続している」と述べた。その間、志賀氏は硬い表情で下を向いていた。

■午前10時25分~「IBD連合が最も優位」

最も注目される半導体メモリー売却交渉の説明に入った。綱川社長は現在の優先交渉先である日米韓連合を「IBD連合」と表現。産業革新機構(INCJ)、米ベインキャピタル(BainCapital)、日本政策投資銀行(DBJ)の頭文字を取った略称のようだ。「IBD連合は最も優位性が高いと判断した。複数の当事者がおり、時間がかかっているが調整を進めている。17年度中の売却完了を目指す」と強調した。

WDによる仲裁申し立てや訴訟提起については「不当に東芝メモリの売却を妨害している」とし、「この件についてもIBD連合には理解してもらっている」と説明した。

■午前10時42分~「決算チェック体制を改善」

質疑応答に入った。毎回このタイミングで株主から「動議!」と大声で発言があるが、今日は静かだ。

まず成毛康雄副社長が起立し、事前に寄せられた質問について代表して回答した。「経営危機に2度と陥らないための対処は」との問いには「不適切会計処理の反省で決算チェック体制の改善を推進していく」と述べ、「原子力からの撤退は」については「廃炉など社会的意義のあるビジネスを続ける」と答えた。人員削減については「検討していない」と断言した。

■午前10時51分~「幹部の意識改革はしている」

総会に出席した株主との質疑応答が始まった。最初に女性株主が「東芝社内でパワハラが横行している。安心して働ける人事制度をつくってほしい」と訴えた。人事・総務担当の牛尾文昭専務は「従業員の個別事案にかかわるのでプライバシー上開示できない」と淡々と答えた。

30年以上にわたり東芝株を所有しているという男性株主は「いつものようにアクセスのいい都内で開催してほしかった」と嘆く。綱川社長は「今回は多数の来場が予想されたので、集客面から幕張メッセを選んだ」と理解を求めた。「リーダーシップがある経営者を育成できるのか」との問いには、経営刷新担当も兼ねる牛尾専務が「マネジメントの意識改革研修も定期的に実施しており、幹部自身の成長につなげている」と回答した。

社外取締役の役割と責任について問われると、前田新造・取締役会議長(資生堂相談役)が「我々社外取締役は株主の代表。当面は決算に向けてまとめあげ、臨時総会で了承してもらうまで取り組んでいきたい」と答えた。

■午前11時20分すぎ~「WDとかみ合っていない」

初老の男性株主が質問した。「社長の説明ではWDが(メモリー事業売却を)邪魔をしているような印象だが、株主としては心配だ」。東芝メモリ社長でもある成毛氏が「WDとは敵対しているような情報ばかりが出ているが、四日市工場での技術開発など日常のオペレーションはWDと滞りなくやっている」と説明。「一方でメモリー売却案件では金額が良くなかったり、正式に参加してもらえなかったりと、かみ合った議論になっていないのが現状。パートナーなので歩み寄れるところは歩み寄り、係争ごとはきちっとやり、早い解決を目指したい」と語った。

成毛氏が私用でけがをして眼帯を付けていることについての質問が飛ぶと、会場から笑い声が出るなど和やかなムードになった一幕もあった。この時点でヤジは1回もなく、15年に会計不祥事が発覚して以降、最も平和な雰囲気に包まれている。

■午前11時54分~「韓国への技術流出ない」

メモリー事業売却への質問が続く。

初老男性は「IBD連合という略称になぜ韓国の名前はないのか。韓国への技術流出の心配はないのか」とぶつけた。成毛氏は「韓国のSKハイニックスは、(米投資会社)ベインキャピタルが設立する特別目的会社に融資するだけで議決権を持たない予定。そのため技術流出はない」と答えた。

■午後0時5分すぎ~「三流に成り下がった」

一部株主から「役員選任は個別に審議して」との訴え。だが、拍手は起きず総会はそのまま進む。

男性株主から「三流に成り下がったのに危機感が見えない。まず役員が多すぎるので4分の1に削減しろ」と指摘が飛ぶと拍手が起きた。牛尾氏は「執行役人事委員会で選定しているので理解してほしい」としのいだ。

■午後0時16分~初めてのヤジ

きょうの総会で初めてのヤジが飛んだ。企業風土に関する牛尾氏の答えに対し、会場の女性が「回答いただいておりません!」。

■午後0時20分ごろ~「志賀氏の言葉を」

「志賀氏の言葉を聞きたい」。株主が経営危機を引き起こした原子力事業の責任者だった志賀氏の説明を何度も求めている。だが綱川社長は「代表しておわびする」と述べるだけだ。

■午後0時30分~「何を言っても変わらない」

男性株主から「企業風土についての回答を聞き、ここで何を言っても変わらないと感じた」と諦め声も出た。

この株主が役員が今でもグリーン車や公用車を使っているのか問うと、綱川社長は「近場はそうではないが、遠方出張の飛行機はビジネスクラス。車はセキュリティーなども考えて公用車を使っているが、全体では減っている。経費の効率化や生産性を考えたい。この件はこれ以上は控えたい」としどろもどろに回答。綱川社長が今日初めて動揺を見せた瞬間だった。一方で「こんなときだからこそ満員電車ではなく公用車で移動するべきだ」との株主の発言もあった。

■午後1時~「韓国SKとは良好な関係」

綱川社長が「あと2名で」と打ち切りを宣告した。以前の総会では打ち切りに不満を持った株主がヤジを飛ばす光景もあったが、今回は静かだ。

女性株主は「SKハイニックスの株主からすると、技術が得られないのに投資するわけがない。ベインはただの看板ではないか」など納得がいかない様子だ。成毛氏は「ハイニックスとは良好な関係。過去の漏洩問題は民事と刑事で適切な判断が出て終わっている。今回SKとベインは融資関係だ」と繰り返した。

■午後1時4分~「国の関与はあるのか」

最後の質問は中年男性。「民間企業である東芝の決定に、国の関与はどれくらいあるのか」とただした。綱川社長は「(国の関与は)あくまで協議。本日の議題とは関係ないのでこれ以上は控えたい」とかわした。

これで質疑応答は終了し、9人の取締役の選任とエネルギー事業分社化の2議案を可決した。

■午後1時9分

最後に綱川社長が「一昨年と同じく決算報告ができずに申し訳ない」と改めて陳謝。役員一同が頭を下げて閉会した。

15年5月に会計不祥事を公表して以降、株主総会では毎回「役員は全員辞めろ」「どういうつもりだ」とヤジが飛び交ってきた。原子力事業の縮小や東証2部への降格など、不祥事の発覚時に想定していなかった事態に陥っているにもかかわらず、過去と比べ「異様な平穏」だった。出席者した株主は984人と半減し「もう諦めた」とぽつりと漏らした株主の言葉のように、東芝への失意の表れともいえる。だが、メモリー売却交渉や企業風土改革への突っ込んだ指摘が質疑のほとんどを占めたように、東芝の今後に関心を持っている株主もまだいる。彼らの期待を今度こそ裏切らないことが、今日壇上に並んだ役員たちの責務だ。

(中藤玲、山端宏実、斉藤美保、薬文江、池下祐磨)

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