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「FTと日経、同じ目線で切磋琢磨」 会見全文

日本経済新聞社が24日に開いた英フィナンシャル・タイムズ(FT)・グループの買収に関する記者会見での、喜多恒雄会長と岡田直敏社長の発言は以下の通り。

日経のグローバル化へ最高のパートナー

FTの買収について記者会見する日本経済新聞社の喜多恒雄会長(右)と岡田直敏社長(24日午後、東京都千代田区)

喜多恒雄会長「こうしてFTとのパートナーシップを発表できて大変うれしく思います。昨日、FTグループの買収について親会社のピアソンと合意しました。以前から、日経が成長するためにはデジタルとグローバルの二つを推進していかなければならないと思っていて、特にグローバル化に大変強く関心を持つようになっていました。FTとは人材交流や共同編集で長い間培った親密な関係があります。FTとコミュニケーションを深めるなかで、FTの理念や価値観が我々と同じだと確信し、日経のグローバル化を進めるには最もいいパートナーだと考えるようになりました」

「ここ数年はピアソンの経営陣に対して、FTの経営に関心がある旨を折に触れて伝えてきました。今回、ピアソンがFTの株式を売却することを決めて、このたび日経に買収の打診がありました。FTは127年にわたる歴史をもって、ヨーロッパのみならず、世界に冠たる経済メディアとして多くの読者の信頼を勝ち得ています。50年以上にわたってピアソンではぐくまれてきた国際的な信用、ブランド価値を落とすことなく、ますます高めていかなければいけないと責任を感じています」

「いうまでもなくFTが長年にわたり築いてきた信用は、その的確な分析力、深い取材力に象徴される報道の質の高さによるものです。数々のスクープ記事や深い洞察をそなえた分析記事を送り出し、世界中のビジネスマンや、金融関係者、政財界のキーパーソンに高い評価を受けています」

編集権の独立、変わることなく維持

「FTの社是である『WITHOUT FEAR AND WITHOUT FAVOUR』は『恐れず、こびず』を意味します。常に公平で圧力に屈しない、忠実な報道を続けてきたことが今日の評価を獲得した要因です。日経の社是である『中正公平』とまさに共通します。この会社となら価値観を共有してともに歩んでいけると確信が強まったことが今回買収を決断した決め手になりました」

「(FTの)ライオネル・バーバー編集長が率いる編集局の方針については全幅の信頼を置いています。報道機関に最も必要な編集権の独立は、これまでと変わることなく維持されます。買収手続きが完了し、日経グループに入ってからも、FTのジャーナリスト、社員のみなさんは今まで通り質の高いジャーナリズムを世に送り出すことに集中し、仕事を続けていただきたいと願っています」

「FTのジョン・リディング最高経営責任者(CEO)をはじめとした経営陣にも信頼を置いています。リディングCEOは最初にあった際に『経営者である前にジャーナリストである』と言っていました。『喜多さんもそうですよね』と言われ、まったく同じ考えを持つテーストの合う人だと思ったのを覚えています」

FTはFTのまま 経営・報道スタイル変えず

「FTの読者のなかには、日経と一緒になることに対してメディアとしてのFTの良さが失われるのではと心配されている人もいるかもしれません。私はFTの経営や報道のスタイルを変えたいとは思っていません。FTはFTのまま。FTが強くなることが日経にとっていいことだとリディングCEOに伝えてあります」

「世界経済の変化のスピードは年々速くなっており、経済報道に対する読者のニーズは高まっています。FTと日経は目線を同じくして切磋琢磨して、欧米とアジアをカバーする真のグローバルメディアとして互いに成長していくことを目指します」

グローバル展開、スピードアップが必要

岡田直敏社長「私からはもう少し具体的に日経のグローバル戦略のなかでFTがどういう位置を占めるのかについてお話しします。日経は来年創刊140周年を迎えます。経済を軸に一貫して報道してきました。日本の情報を日本の読者に伝えることがメーンでした。しかし今、日本企業やビジネスマンがアジアを中心に世界中で活躍しています。海外、特にアジアの国々と取引を持たない企業が少なくなってきました。日本で取材しているだけでは読者のニーズに応えられないという思いを強く持つようになりました」

「私は編集局長時代にアジアをいろいろ見て回りました。日経は日本の新聞社では最もアジアに駐在しているところが多いが、まだ足りないなと感じました。アジアの躍動、アジアで成長している企業の姿をちゃんと伝えられているだろうかと。日本の読者も、日本の情報だけではなくて、海外の特にアジアの情報を欲しいと思っていると伝わってきました。なんとか早く手を打ちたい。当時社長だった喜多会長と一緒にグローバル展開をスピードアップしないといけないと話し合いました」

「昨年にはバンコクにアジア編集総局を置きました。シンガポールには日経グループアジア本社も設置しました。編集・ビジネス両面で、日経も海外、特にアジアに出ていくんだということを始めたわけです。1年ちょっとでアジアに配置している記者は倍増しました。ビジネスのための要員もたくさん増やしています。その中では外国人の記者もたくさん採用しています。こうしてアジアのいろんな動きをつまびらかに細かく伝えるようにしています」

「一方では日経の英文媒体『Nikkei Asian Review』(NAR)を一昨年に発刊しました。アジア情報満載の雑誌やウェブサイトをあちこちで読んでもらうための展開をしています。ただ、日本のメディアがグローバルで自分たちのプレゼンスを高めていくことはなかなか簡単ではありません。自分たちが手を組めるグローバルパートナーとしてふさわしいところとして真っ先に念頭に置いていたのがFTでした」

FTのブランド・人材力生かしNAR育てる

岡田社長(左)と喜多会長

「FTと日経は長年記事の交換で付き合いを深めてきました。この5年はさらにいろんな形で関係を深めています。アベノミクスが登場してから日経とFTで同じテーマで特集を組みました。多角的にアベノミクスを分析し、日経の媒体にFTの記事、FTの媒体に日経の記事を載せました。成功したと思っています。セミナーを共同でやるといったことも続けています。FTのたくさんの方々を知り、意見交換する機会がありました。FTの方々にも日経を知ってもらったと思います。長期の交流の中から今回の買収がもたらされたと思います」

「私どもは世界が注目する舞台であるアジアを詳しく報道するNARを大きく育てたいと考えています。そのために記者も増やし、外国人採用も増やしていますが、時間がかかります。ブランド力があり、人材も豊富なFTと一緒になることで自分たちが思っていたよりも速くメディアを大きく育てられるというのが買収の狙いです。どう進めるかはこれからFTの皆さんとじっくり話をします」

デジタル戦略の強み学ぶ BtoBも視野に

「もう一つの狙いはデジタル戦略です。FTも『FT.com』が非常に大きく成長しています。日経電子版も43万人の有料読者を数えるまでになりました。両社を合わせると(有料読者は)90万人を超え、世界最大のニュースメディアに育っています。デジタル戦略の面ではシステムとか、サービス開発とか、顧客管理とか、いろんな面でFTのほうが一歩先に行っている部分があります。FTの強い部分を学んでいきたい。一緒になってよりよいサービスを提供したい。そういった面にも大きな期待を持っています」

「BtoCだけでなくBtoBの情報、データサービスも将来視野に入ってくるといいと考えています。日経のグローバル戦略を一歩速く進めるために時間を買いました」

【質疑応答】

編集とビジネス 2つのシナジーに期待

――FT買収でどのようなシナジー効果があると考えていますか。

岡田氏「編集面、ビジネス面両方のシナジーに期待しています。編集面で言うとグローバル戦略です。日経はアジアについては今でも世界の新聞社でトップクラスの取材網、情報量を持っています。これをさらに大きく増やしていきます。現在、東南アジアのトップ100社を選んで重点取材していますが、これを年内に300社に増やしていきたいと思います。インド、中国、韓国を含めてやっていきます。こういった企業取材の蓄積はFTにとっても重要なものになっていきます」

「またFTの買収によって、今よりも質の高い豊富な国際情報を日本の読者に提供できるようになります。FTには世界に影響を与えるコラムニストがおりコラムに定評があります。ぜひ、こうしたコンテンツを何らかの形で日本の読者にも提供していきたいと思います」

「ビジネス面も広告やいろいろなイベントが考えられます。FTは顧客管理やプロモーションなどで非常に優れたものを持っています。いろんな試行錯誤も含めて展開しており、私たちが電子版を拡販していくうえで参考になる部分があります。サービス開発での協力やNARの顧客データベースの整備での協力、アイデアをもらうことも期待できるのではないかと考えています」

――FTの編集権の独立は明文化して担保するのですか。

岡田氏「編集権の独立については、これまでのFTのトップとの面談で何度も繰り返して伝えています。明文化するかどうかというよりも、信頼していただくということをやっていきます。当然違う新聞社ですから、書く内容、とらえ方は違ってくることがあります。(買収しても)合体するわけではなく、FTはFTであり、日経は日経です。協力していく部分は協力しますが、お互いの編集方針、編集局のカルチャーは尊重し合います。問題があれば胸襟を開いて話し合います。話し合う中で一点を見いだしていく努力をします」

買収金額、妥当な範囲で決着

――FTから日経への買収の打診はいつ、どのようにあったのですか。

喜多氏「5週間前にピアソンから投資銀行を通じて具体的な打診がありました。今週、私と担当者がロンドンに行ってピアソンのジョン・ファロンCEOと直接交渉しました。昨日、私と岡田とファロンCEOが電話会議で具体的に価格を決め、契約をその場で交わすという形で決着をつけました」

――買収金額を1600億円とした根拠は何ですか。また、資金はどのように工面するのですか。

荒川大祐・経営企画統括補佐「守秘義務があるので細かくは伝えられません。妥当な範囲で決着しました。1600億円は買収額としては決して少なくありませんが、将来のキャッシュフロー、収益をみて試算した上で十分にマネージできる範囲だと考えて合意に至りました。自己資金と外部からの借り入れを検討しています」

欧米とアジアの強み 世界の読者にプラス

――FT買収でグローバルの読者にどのような影響がありますか。

岡田氏「欧米に強いFTとアジアに強い日経が合わさることでコンテンツの質と量を飛躍的に高められます。世界の読者にとってもプラスになります。FTにNARの記事が取り上げられることも増えていくでしょう。FTは今までもデジタル戦略を進めてきましたが、自分たちがやりたい投資が十分にやれなかったという声も聞いています。同じ新聞社としてできるだけFTの成長を支えていきます。FTが大きくなることは私どもにとってもプラスです。FTへの積極的な投資、成長を支援していきたいと考えています」

――喜多氏のFTの購読歴を教えてください。

喜多氏「私の英語力ではFTをなかなか読み下すのは難しく、正直に言うとFTを眺めています。(購読歴は)25年くらいですかね。長年続けていて今は朝、電子版を見るという形で愛読しています」

深い提携で本当の交流が生まれる

――ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を傘下に持つ米ダウ・ジョーンズや通信社の米ブルームバーグといった競合とどう戦いますか。

岡田氏「紙と電子版がミックスした競争の流れは世界的に進んでいきます。そうした中で今回の案件はコンテンツ面でも、お互いのデジタル対応能力を引き上げるのにも役立ちます。規模的にも電子版について言えば、世界で最も大きなメディアになります。お互いの顧客・読者層を生かすという形での新しい読者開拓、サービス強化が可能になってきます。もちろんWSJなど強力なライバルは違うことをやってくると思うので簡単に競争に勝てるとは思いませんが、FTとの一体化により強力なメディアになれるという感覚・確信を持っています」

――日経とFTは以前から記事の相互利用をしていますが、買収で何が変わるのでしょうか。

岡田氏「記事の相互交換はやっていますが、それは限定的なものです。人材の交流やノウハウの交換まではいっていません。今回のような深い提携により本当の交流が生まれます。そこからシナジーが生まれると思っています。FTの持っている資産価値、ブランド力を換算し、私どもの力、両社でつくれる新しい価値を考えれば(買収金額は)見合う額だと考えています」

――以前にFTがオリンパスの粉飾決算を報道したとき日経の報道は遅れました。FTの編集権を守れるのでしょうか。

岡田氏「オリンパスの報道について多少出遅れたということはあったかもしれませんが、私どもが遠慮していたわけではないと思っています。私たちはFTの編集を私たちと同じようにしようと思っているわけではありません。日経が作る紙面によって、FTも変わるというわけではありません。それはまさに編集権の独立を保証するということです。一方で買収によって人の交流も増えていくし、意見交換の場も増えていきます。そうした中で見方が違う場合はどちらの見方がいいのか話し合うことも重要だと考えています。その中でFTの見方が正しいと判断した場合には学ぶということもあるのではないか。そうした関係を続けていくのが大事だと考えています」

クオリティージャーナリズム、さらに強固に

――FTの経営陣、編集の人たちは現在の体制のまま職務にあたるのですか。

岡田氏「今の経営、編集陣を信頼しています。経営について細かく口出しすることはありません。編集については最もふさわしい人が編集長を務めます。現在の社長、編集長はきわめて立派な方々だと思っています」

――買収手続きのスケジュールを教えてください。

荒川氏「FTはグローバル企業です。独占禁止法の調査など国によって規制があります。順調にいけば年内に完全に手続きが完了します」

――インターネットなどで登場している新興メディアについては、どのように見ていますか。

岡田氏「当然大きな関心を持っています。いろんなサービスが出てきています。自分たちでコンテンツをつくるという動き、有能な編集者をスカウトしてクオリティーを高める動き。いろいろな動きがあり、しっかり見ていく必要があります。しかし、われわれはクオリティージャーナリズムを標榜しています。今回もその旗手であるFTと組むことで、この路線をさらに強固にしていきます。価値のあるコンテンツは有料で、対価を払っていただきます。それによって健全なジャーナリズムを維持していきます。この路線は変えるつもりはありません。それを維持した上で新興メディアの新たな技術やサービスを取り入れるべきことは取り入れていきます」

野村裕知専務「形の上では日経は伝統的なメディアと分類されます。(FTも伝統的なメディアとみられていますが)FTのイノベーティブな取り組みに感銘を受けています。FTが大量の優秀なエンジニアを抱え、自前でサービス開発する姿に学びたい。特に大量のデータを分析する技術やモバイルに合わせた表現などキャッチアップしないといけない部分はたくさんあります。謙虚に学んでいきたい」

――人員削減や支局の統廃合を考えていますか。

岡田氏「人員削減や統廃合は考えていません。支局(の統合)についてはコスト削減ではなくあくまでシナジーを生かす場合にはやると考えています」

――日本企業による海外企業の買収は過去に失敗もありました。

岡田氏「失敗しないようにがんばります。こうしたことは初めてですが、相手との相互理解・相互信頼が基本です。利益が出ないと成り立ちませんが、利益を増やすために買収しているわけではありません。ジャーナリズムとしての価値、影響力をさらに高めたいという双方の共通する思いを実現するための買収です。そういった共通認識が確固になれば、この買収が失敗することはないのではないでしょうか」

アジアの企業データベース育て法人に販売

――法人向けビジネスはどのようなことを検討していますか。

岡田氏「日経は日経テレコンという記事データベースサービスを持っています。法人が主な顧客です。これからNARを中心にアジア企業の取材・データ収集を続けていきます。いずれ信頼性の高いアジアの企業データベースに育てば、このデータを一定の価格で法人に売っていけます。その販路の中には当然欧州やアメリカもあるでしょう。そうした部分をFTと一緒に展開するのが一つのイメージです」

――日経とFTの電子版の読者の地域別の比率はどのようになっていますか。

野村氏「FTの数字はこちらからは申し上げられませんが、読者は世界中に広がっています。欧州が巨大なマーケットですが、アメリカも大きいと聞いています。それに比べるとアジアでの読者開拓は相対的にはまだまだと考えています。日経に関しては、日本語サービスなので日本の読者が中核です。もちろん海外で読んでいる方もいますが中心は日本の読者。FTの顧客基盤と掛け合わせることで新しいサービス、読者の開拓ができると期待しています」

――アジアでの企業買収は考えていますか。

岡田氏「アジアでの買収は今は考えていません。将来そうしたことが出てくれば、ないこともありません。しかしアジアは外資規制があり投資が難しい面があります」

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