Jフロント、激戦大阪で生き残り挑む 大丸心斎橋店建て替え
J・フロントリテイリングは24日、傘下の大丸松坂屋百貨店の旗艦店、大丸心斎橋店(大阪市)の本館を建て替えると正式発表した。南館もインバウンド(訪日外国人)対応の店舗に改装する。大阪は増床や新店開業で一時は3年間で百貨店の総店舗面積が2割以上も増えた激戦区。建て替えが懸案になっていた老舗店舗がついに動き、競争に拍車がかかる。

心斎橋店の本館の営業は12月30日に終え、年明けに解体工事に入る。新たな本館は2019年開業の見通しだ。北館と南館は営業を続ける。建て替え費用は本館で300億円前後、南館の改装などを含め400億円前後に達する可能性がある。
大阪市中心部は大規模な百貨店が集まる「激戦区」だ。JR大阪駅周辺では11年に大丸梅田店、12年に阪急うめだ本店が増床。関西国際空港への鉄道路線の玄関口にあたる難波では11年に高島屋大阪店(大阪市)が増床、その近くでは14年3月にあべのハルカス近鉄本店も全面開業した。
11年3月末に61万平方メートルだった市内百貨店の総店舗面積は14年3月末には75万平方メートルまで拡大した。そのなかで、あべのハルカス近鉄本店の初年度売上高が計画を大幅に下回り、11年に大阪駅周辺地区に乗り込んだ三越伊勢丹ホールディングスが約3年で事実上撤退に追い込まれるなど、消耗戦になっている。
大丸心斎橋店の売上高は大丸松坂屋百貨店で3番目の845億円(15年2月期)。著名建築家のウィリアム・ヴォーリズが設計し1933年に完成した同店は老朽化し、情報化(IT)対応などの問題からかねて建て替え案が浮上していた。
激戦区で生き残りを託すのが、本館・北館を常連客向け、南館を訪日客向けとすみ分ける二兎(と)を追う戦略だ。
南館には高級腕時計や美術品など訪日客に人気のあるブランドや商品の売り場を集める。免税品の販売拠点と位置付け、近隣の商店街と共同の一括免税カウンターも設ける。心斎橋店では免税品の売上高が店全体の4割を超す日もあるほどだ。「インバウンド拡大の流れをうまくとらえている」。ライバル百貨店の関係者も南館の活用策をこう評価する。
一方、常連客が多いのも同店の特徴。外商の売上比率はグループの全店平均に比べ約10ポイント高い約30%とトップクラスだ。本館の建て替え方には得意客をつなぎ留めようとの配慮がにじむ。
歴史的価値を持ち、保存要望も高かった外壁を利用しながら建て替えるが、一から建てるのに比べ「コストがかなり上積みされる」(Jフロント幹部)。昔ながらのイメージを残すことが集客策になるとの判断だ。もっとも若い年代を引き込むには新鮮さも必要。それが新旧が同居する建て替え方になった面もある。
心斎橋店は当面、本館抜きでの戦いを強いられる。ライバルにとっては「大丸心斎橋店を利用してきた富裕層や訪日客を取り込む好機」(大阪市内の百貨店幹部)。同店の顧客の多い地域にチラシを重点配布する策を練るなど隙を狙っている。建て替えは防衛戦の始まりでもある。(豊田健一郎、林英樹)
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J・フロントリテイリングは24日、15年3~8月期に心斎橋店の本館建て替え関連で約78億円の特別損失を計上すると発表した。同期の純利益は約50億円減少する見込みだとしている。
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