中古品換金アプリに課題 「CASH」サービス再開
スマートフォン(スマホ)を通じて中古品を査定し現金化するサービスが物議を醸している。「CASH(キャッシュ)」を運営するバンク(東京・渋谷)は24日、開始直後に停止したサービスを再開した。中古品を簡便に査定・換金できることからネット業界では「デジタル質屋」と呼ばれ、質屋営業法や貸金業法に違反する恐れがあるとの指摘がでていた。今回のサービス刷新で課題は解決できたのだろうか。
CASHは身近にある商品をスマホ1つで現金化できる新しいサービスだ。利用者はスマホのアプリを立ち上げてカテゴリーを選び、売りたい商品を撮影する。最大2万円までの買い取り査定額を表示され、同意するとあらかじめ登録した口座に現金が振り込まれる。
個人情報の登録は電話番号だけでできるが、査定額が1万円以上になる場合は免許証などの本人確認が必要だ。
問題はこのサービスを使えば、手軽にお金が借りられることだった。現金を振り込んでから2カ月以内に商品を送らずに取引をキャンセルした場合、査定金額に15%相当を上乗せして返金させる仕組みがあったのだ。
CASHを運営するバンクは中古品を売買する古物商の資格を有していた。しかし、取引をキャンセルできる機能があったため、サービス内容が中古品を担保にお金を借りられる質屋に当たるのではないかとの指摘がネット上でなされた。
質屋の場合、質屋営業法は対面取引を義務付けている。「(ネット上で取引する)CASHが質屋と認められれば、同法に違反している恐れがあった」(ベンチャー企業に詳しい早川明伸弁護士)。一方、バンク側は「実際には中古品を預かっていないので質屋ではない」と反論していた。
さらに貸金業法の観点から査定金額に15%相当額を上乗せして返金する仕組みは、利息でお金を借りていたのと同じようになり、「貸金業に当たるのではないか」との声も上がっていた。
ある弁護士は「従来のビジネスモデルは貸金業と解釈できるもので、登録せずに行えば違法だった」と話す。早川弁護士は「貸金業とされた場合、利息制限法が定める10万円未満の貸し付けの上限金利(年20%)を超えている可能性があった」と指摘する。
バンク側は貸金業なのではとの指摘に対し、「15%分は利息ではなく、古物取引が実現しなかった機会損失を補うキャンセル料だ」と反論。6月末に現金化した案件のうち、98%は実際に商品が送られてきたという。
24日に刷新したサービスでは、利用者にキャンセルを認めず、入金後2週間以内に商品を必ずバンク側に送るように改めた。さらに1日当たりに現金化する上限を1000万円に制限する。
査定方法も変えた。以前はカテゴリーの情報だけで査定額を表示していたが、今回は写真を画像解析して査定の精度を高めた。CASH側が利用者を評価できる機能も追加。申告とかけ離れた商品が送られてきた場合などは評価が下がり、査定額にも影響する。
今回の対応で法的にグレーだった部分は解消したようにも見えるが、依然懸念は残る。盗品が送られたり運営側の資金がショートしたりする懸念が完全に払拭されたわけではない。スマホを通じた新サービスが続々と登場する中、フリマアプリの「メルカリ」などでも盗品の持ち込みが顕在化したことがある。消費者が安心して取引できる仕組みの構築が欠かせない。
バンクは6月28日にCASHのサービス提供を始めた。手持ちの中古品を数回の画面操作で手軽に現金化できるとして、発表直後からネット上や起業家の間で話題になった。開始から16時間でアプリのダウンロード回数は2万9千回、現金化は7万2千回、計3億6千万円の成約高と爆発的に広がった。
想定以上の資金の流出を受け、バンクは16時間あまりでサービスを一時停止。需要見通しの甘さに加えて、ビジネスモデルそのものにも「脱法行為ではないか」との批判がネット上では出ていた。査定機能の刷新や物流倉庫の確保を進め、約2カ月で再開した。
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