2017年12月16日(土)

革新力 The Company 第5部

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米シリコンバレーでも突き抜ける シンギュラリティ大の未来志向

2014/10/4 2:00
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 シリコンバレーの中心にある米航空宇宙局(NASA)の広大なリサーチパーク。シンギュラリティ大学(SU)はその一角にある。技術革新をテコに食糧、エネルギーなど世界的な難題解決に挑む人材を育てる同大学を訪ねてみた。

ヒト型ロボットを操作するシンギュラリティ大学イノベーション・ラボのナティアン氏

ヒト型ロボットを操作するシンギュラリティ大学イノベーション・ラボのナティアン氏

■技術の全体像を学べる場所

 本部ビルから少し離れた平屋の建物にあるのが「イノベーション・ラボ」だ。足を踏み入れると、3D(3次元)プリンターや小型無人機、ヒト型ロボット、バーチャルリアリティー(仮想現実)技術を使ったゴーグル型ディスプレーなどがあちらこちらに無造作に置かれていた。「SUにやってくる学生に、最新の技術を体験してもらうのがこの場所の役割だ」。責任者のロイ・ナティアン(26)はこう教えてくれた。

 SUは民間による有人宇宙飛行など、難易度の高い目標に懸賞金をつけて競わせる米Xプライズ財団を創設した実業家のピーター・ディアマンディス(53)と、発明家で未来学者のレイ・カーツワイル(66)が2008年に共同で設立した。テクノロジーが加速度的に進歩し、コンピューターが人間並みの知性を持つ近未来を予言したカーツワイルの著書に刺激を受けたディアマンディスが「指数関数的に進歩する技術の全体像を学べる場所を作ろう」とカーツワイルに提案。グーグルやジェネンテックなど趣旨に賛同した企業がスポンサーとなった。

シンギュラリティ大学を創設したディアマンディス氏(手前右)とカーツワイル氏(手前左)

シンギュラリティ大学を創設したディアマンディス氏(手前右)とカーツワイル氏(手前左)

 毎年夏に10週間にわたって開講する大学院レベルの「グラデュエート・スタディー・プログラム(GSP)」や、企業や政府機関の幹部クラスを対象とした1週間の「エグゼクティブ・プログラム」など複数のプログラムを提供する。主力のGSP(定員80人)には、毎年3000~5000人が応募。これまでに85カ国で2000人以上が卒業した。

 最高経営責任者(CEO)のロブ・ネイル(41)によると、選考基準は3つ。(1)大学院レベルの知識を備え、(2)起業経験もしくは起業に必要なスキルがあり、(3)大きな課題を解決しようという情熱があること――という。「我々が求めているのはアカデミックな人材ではなく、あくまで実世界で結果を出せる人材だ」とネイルはいう。

シリコンバレーの「NASAリサーチパーク」内にあるシンギュラリティ大学の本部ビル

シリコンバレーの「NASAリサーチパーク」内にあるシンギュラリティ大学の本部ビル

■「不眠大学」の異名も

 GSPは前半の5週間で、最新の技術動向や世界が抱える難問についての理解を深め、後半の5週間はチームになって解決策を編み出す。寝る間も惜しんで課題に取り組む学生が多いため、「Sleepless University(不眠大学)」の異名もついた。

 SUで学ぶ人材はどこから来るのか。運営上の実務を仕切る上級副社長のエメリーン・パートダルストロム(47)によると、米国以外では欧州や中南米が多く、アジアはまだ少ないという。「数えるほどしかいない」日本からの参加者を増やすために、SUは「グローバル・インパクト・コンペティション(GIC)」と呼ぶイベントを日本で開催する計画を温めている。人類が直面する大きな課題を解決するアイデアを競うもので、優勝者はシリコンバレーでGSPに参加する資格と奨学金がもらえる。

 高等教育機関としての役割のほかに、SUが力を入れているのが、卒業生の起業を支援するインキュベーター(ふ化器)としての機能だ。事業化を支援する「SUラボ」に所属するベンチャー企業は現在30社。世界で初めて無重力空間で使える3Dプリンターを開発したメード・イン・スペースや、細胞片から人工肉を製造するモダン・メドー、人工的に遺伝子を合成して新たな生命体を作る「合成生物学」の研究者向けのCADソフトを開発するゲノム・コンパイラーなど、独創的な企業が多い。SUラボを統括する最高戦略責任者(CSO)のガブリエル・ボルディヌッチ(44)は、「数年以内にポートフォリオを数百社に増やすのが目標」と意気込む。

シンギュラリティ大学のキャンパス

シンギュラリティ大学のキャンパス

■大企業や国際機関も注目

 SUの革新力には、大企業や国際機関も着目する。今春から新たに始まった大企業向けプログラム「コーポレート・イノベーション・エクスチェンジ(CIX)」には、コカ・コーラのようなグローバル企業やユニセフなどが参加。研究開発部門などの社員をSUのキャンパスに常駐させ、世界中から集まる学生やベンチャーの経営者との交流を促すことで、新たなイノベーションを生み出す「エコシステム(生態系)」の確立を狙っている。

 共同創業者から現場の責任者まで、SUにかかわる人に共通しているのは、テクノロジーの進歩が世の中の難問を解決し、よりよい未来が訪れるという確信だ。「過去数百年の間に世の中が大きく改善したのは技術が進歩したからだ。技術はどちらに向かうかといえば、より進歩するだけ。今後20~30年で、地球上のすべての人間は最低限の必要が満たされる」。ディアマンディスはこう語る。

 世界をよくする同じ技術は、人に危害を加えることもできる――。こう水を向けると、ディアマンディスは「世の中は透明性が高まっており、誰かが隠れて技術を悪用するのはますます難しくなっている」と答えた。むしろ、「自分たちに理解できないものはとりあえず規制するという政府の動きの方が、技術の進歩にはマイナスだ」という。

 「世界を変える」が合言葉のシリコンバレーでも、とびきり未来志向で楽観的――。そんな突き抜けた人材の厚みが、SUの革新力を支えている。=敬称略

(シリコンバレー=小川義也)

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