デジタル司令塔「CDO」、日本企業じわり7%に
欧州4割、北米2割に16年急拡大
企業内のデジタル戦略を包括的に担う要職「チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)=最高デジタル責任者」が日本でじわりと広がってきた。PwCコンサルティング(東京・千代田)の調査によると、日本でCDOを設けている企業の割合は2016年に7%だった。15年は0%。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などが主要テーマになり、デジタルの司令塔の必要性が認識され始めた。ただ、日本らしい横並び意識がみられ、狙いが明確で導入が進む海外との格差も目立つ。

PwCが全世界で、企業がデジタル化に対応した社内体制を築いているかを調査した。CDOは部門を横断して、社内外のデジタルビジネスを統括する。社内システムより新規事業創出などに重きを置き、業務内容は最高情報責任者(CIO)より幅広いとされる。
日本では今年に入り、三井物産、三菱ケミカルホールディングス、SOMPOホールディングスなどがCDOを設けた。三菱ケミカルは日本IBMから人材を招いている。
■デジタル化のなかで残る「横並び」意識
CDOの名称の有無を問わずデジタル化を推進する責任者について尋ねたところ、日本企業では8割近くが執行役員以上だった。責任者を社長・最高経営責任者(CEO)が兼務している企業では、従業員がデジタル化推進の目的を理解している割合が93%だった。執行役員が担当の場合は95%。一方、部長クラスが責任者だと83%に下がり、担当の役職が上であるほど、デジタル化の社内の理解が進んでいることがわかった。
デジタル人材の起用方法を複数回答で尋ねると「社内の別の部署から配置転換」が53%と最多。「既存業務に上乗せする形で担当」も47%と半数近くに上った。一方、「新規に社外から採用」は27%。外部の専門人材活用が海外に比べて進んでいないという。
今後のデジタル化の推進については「横並び」(63%)、「同業他社の状況を見て進める」(12%)が上位だった。PwCコンサルティングの唐木明子パートナーは「横並びあるいは後追いの姿勢では、真のデジタル化を望むことはできない」と指摘する。IoTや人工知能(AI)の重要性は認識し始めているが、他社を出し抜くというところまでは踏み込めない。日本的な「付和雷同」の状況が浮かび上がる。
「エコシステム」推進役を期待
海外企業は意識が進んでいる。PwCによると、全世界でCDOを設置している企業の割合は19%と1年で3倍強になった。15年に8%だった欧州・中東・アフリカは38%、6%だった北米は23%に急拡大した。
海外では米ゼネラル・エレクトリック(GE)や米スターバックス、仏ロレアルなどがCDOを設けている。独フォルクスワーゲン(VW)やボルボ・カー(スウェーデン)が外部人材をCDOに迎え入れた。
背景を読み解くキーワードは、デジタル経済を代表する言葉「エコシステム(生態系、経済圏)」だ。欧米企業は、IoT技術などを使い部門横断の活動や異業種連携により革新的な技術やサービスを創出しようと動く。CDOは推進役を期待されるケースが多い。
GEはIT(情報技術)を使って航空機エンジンや風力発電機の保守を遠隔で監視し、サービスでも収益を上げるモデルに転換してきた。異業種との連携にも柔軟だ。ロレアルやスターバックスは消費者の生の声を拾い上げ、きめ細かい商品開発などに生かそうとしている。
自動車業界では、自動運転車などを巡りIT企業と競争しながら協調する場面が増えている。VWやボルボは配車サービスなど新車販売だけに頼らない、幅広い移動サービスを展開しようとしており、IT業界の人材を経営の中枢に据えた。
グローバルでCDOを設置する企業を業種別にみると、最も多いのが保険(35%)。通信・メディア・エンターテインメントが28%、銀行と消費財・小売・卸売が27%と続いた。一方で製造業での比率は低く、自動車・機械・エンジニアリングは15%、テクノロジー・電機は13%だった。
PwCはグローバル企業(全世界の時価総額上位2500社)を対象に調査を16年7月1日時点で実施した。日本企業は今回が初めての調査となり、16年11月から17年1月まで、デジタル化を進めている従業員500人以上の企業の部長職以上300人が対象だった。
(潟山美穂、加藤貴行)
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