世界初の「海流発電」実験、IHIが描く可能性
IHIと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は7日、2020年に実用化を目指す水中浮遊式「海流発電」の実証試験機を横浜市内で報道公開した。海底からワイヤで固定して水中を漂わせ、海流で羽根を回転させて発電する。100キロワット級の「かいりゅう」が8月から、口之島(鹿児島県)近海でこの規模の機器として世界初の実証試験に入る。新たな再生エネルギーの選択肢となるか。

「設計から製造、配送電まで日本の持つ技術を結集した」とIHI技術開発本部の伊東章雄理事は胸を張る。かいりゅうの全長、幅は約20メートルで、重さは約330トンに達する。両端の円筒状の部分の先端に直径約11メートルの羽根が2枚ついた形状。羽根はそれぞれ逆方向に回転し、海中で安定した姿勢を保持する。浮上させれば海上で保守作業ができる。
海流発電は送電網を含む初期コストは高いが、安定した発電能力を発揮する再生エネルギーになりうる。海流のエネルギーは年間を通して変動が少なく、海流発電の設備利用率は40~70%と高い。風がないと止まってしまう風車は地上なら20%、洋上でも30~40%程度にとどまる。日照がないと発電できない太陽光にいたっては利用率は10~15%程度にすぎず、海流発電の効率の高さがわかる。
串木野港(同県)沖合で7月下旬から試運転し、8月中旬から約1週間の実証試験を始める。海底においた重りから係留して浮遊させ、発電した電気は海底ケーブルを経由して需要地へと送る。かいりゅうと名付けたのは口之島のある十島村の小中学生。海流と「海竜」の語呂合わせが語源という。
IHIとNEDOは6年前からIHIの横浜事業所(横浜市)で本格的に開発してきた。輸送のための船に載せられたかいりゅうは思わず見上げるほどの大きさだが、この発電能力ではとても、現実的な価格では出せない。ビジネスとして成り立たせるにはさらなる機器の大型化が欠かせない。
IHIは2020年代にかいりゅうの羽根を約4倍の40メートルまで大きくし、出力も2000キロワットに引き上げる未来を描く。ただそうなると、漁業権との両立が現実的な課題として浮上する。欧米で一般的となった洋上風力発電が日本で普及しない要因の一つにも、漁業権の補償の難しさがある。海洋大国、日本の恵まれた自然環境も、利用するには知恵が必要だ。
(市原朋大)
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