ANA、「スカイマーク」で逆転劇 エアバスに発注約束
民事再生手続き中のスカイマークはANAホールディングスの出資と支援を受けて再建に踏み出す。当初、議決権額の争奪戦では最大債権者が策定した米デルタ航空支援案が優勢とみられていたが、ANAは欧州エアバスなどの大口債権者に将来の機材発注の意向を伝えることで、6割を超える議決権額を獲得。土壇場での「逆転」を果たした。

「きょう、ふたを開けるまでヒヤヒヤしていた。正直、心から安堵している」。5日夕からの国土交通省での記者会見に出席したANAの長峯豊之取締役は綱渡りともいえる大口債権者との交渉が成功したことに胸をなで下ろした。
再生案の成立には債権者による投票で「議決権総額の2分の1以上の賛成」などを得る必要があり、約38%の議決権を持つ米イントレピッド・アビエーションが策定したデルタ支援案は当初から優勢とみられていた。その他の大口債権者であるエアバスと英ロールス・ロイス、米リース大手CITのうち1社でもデルタ支援案に回れば、ANA支援案は否決されてしまう計算だったためだ。
大口債権者はデルタとの取引が多く、4社を除く小口の議決権比率は合計でもわずか約4%。「大差がつく」との見方も多かった。
情勢が変化したのは7月末のこと。関係者は「適時開示義務が発生しないように条件をつけながら、ANAがエアバスに対し将来の機材発注を約束したことが転機になった」と明かす。
ANAが発注を決めた機種や機数は明らかではないが、スカイマークが国際線への導入を計画していたのと同じ総2階建ての超大型機「A380」が有力。カタログ価格は1機約4億3000万ドル(約530億円)。世界の航空会社から「不人気」の評価を与えられ、エアバスが威信をかけて売り込みに力を入れている最上位機種だ。
これまで東京地裁に対する意見書の提出などでエアバスと歩調を合わせてきたロールス・ロイスやCITも旗振り役のエアバスに同調し、一気にANA支援案に傾く。エアバスは期限と定めた日本時間5日午前0時までにデルタからANAに対抗する機材発注の提案がなかったことで、投票先を最終決断。エアバスがANAに賛成票を投じる意向を伝えたのは5日の未明だった。
ANAはこれまで「スカイマーク案件に絡んで新たな機材を発注することはない」と説明してきたが、5日の記者会見で長峯取締役は「大口債権者には今後の事業戦略の可能性を評価してもらえた」と将来の機材購入に含みを持たせた。
ANAは大型機から燃費性能に優れた中型機への転換を進めてきた。現実にA380を導入することになれば自らの戦略に逆行することになるほか、機材と路線のミスマッチが利用者の運賃に跳ね返る恐れもある。「そのリスクを冒してでもスカイマークが持つ羽田発着枠を他社に渡したくなかった」とANA関係者は解説する。
ある業界関係者はこう指摘する。「スカイマーク再生は決着を見たが、ANAにとってはこれからが正念場になるだろう」
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